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神経治療最前線 海外学会参加報告
Alzheimer's Association International Conference (AAIC) 2024
Alzheimer's Association International Conference (AAIC) 2024
Philadelphia, USA
2024年7月28日〜8月1日
中野博人
金沢大学 脳神経内科学
今回、私は2024年7月28日-8月1日に米国Philadelphiaで開催されましたAlzheimer's Association International Conference (AAIC) 2024に参加しました。私はポスター演題を発表し、当科からは小野賢二郎教授と篠原もえ子先生が参加しました。発表の日程の関係で私は1人で移動となり、2024年7月27日-31日の日程で渡航しました。
1 Alzheimer's Association International Conference (AAIC)
AAICは、認知症科学の発展を目的とした世界最高峰の国際会議と位置付けられています。AAICでは毎年認知症診療・研究に関わっているあらゆるキャリアの研究者、臨床医、メディカルスタッフが一堂に会し、Alzheimer病 (AD) の予防法や治療法、診断法の改善につながる画期的な研究成果を発表しあっています。基礎科学から認知症ケアに至るまで、認知症に関するあらゆる分野・業種がこの世界トップクラスの会議でディスカッションされています。AAICでは、基礎科学、病理、バイオマーカー、臨床症状、医薬品開発、公衆衛生、認知症ケアに焦点を当てた750以上の演題と最新の認知症研究に関する4,500以上のポスターが提示されています。
2 Philadelphia
本学会が開催されたPhiladelphiaは、アメリカ合衆国のPennsylvania州南東部にある同州最大の都市です。Philadelphiaは、New YorkとWashington D.C.の中間に位置し、東海岸で2番目、全米で6番目の人口を持つ北アメリカ有数の大都市です。1682年に人類史上初の信仰の自由が保障された街として築かれ、1776年にPhiladelphiaでアメリカ独立が宣言され、アメリカ誕生の地となりました。1774年の大陸会議開催時に使用された自由の鐘(Liberty Bell)はアメリカ独立の象徴としてPhiladelphiaの地に保管され、独立記念館(Independence Hall)やベンジャミン・フランクリン博物館(Benjamin Franklin Museum)といった国家誕生のシンボルである建築物が数多く残存しています。Philadelphiaの有名なグルメとしてフィリーチーズステーキ(薄くスライスした牛肉を鉄板でいため、いためたみじん切りの玉ねぎと一緒にパンにはさみ、その上に溶かしたチーズをかけた料理)やトマトパイが有名です。学会会場であるPennsylvania Convention Centerの近くにはReading Terminal Market(以前は駅だった建物の跡地を活用した市場のような商業施設)があり、様々な特産品が売られていました。
3 現地までの渡航
私は日本を7月27日(土)に出国しましたが、その1週間前に米国Microsoft社のOS “Windows” のシステム障害で世界中の空港で運航トラブルが生じたとの報道があり心配しました。しかし、ChicagoのO'Hare国際空港を経由して現地時間の7月27日(土)の深夜に無事Philadelphia国際空港に到着しました。空港からはSEPTAという列車が市内までつながっていたのでその電車でSuburban駅まで行き、学会会場であるPennsylvania Convention Center近くのホテルに着きました。深夜1時に着いてようやくシャワーが浴びれると思った矢先、宿泊先の部屋のキーが壊れており中に入れませんでした。修理できず結局別の部屋を準備してもらって中に入れたのが深夜3時頃になりました。散々な初日でしたが、ホテルからのお詫びで大量の飲料水・食料の提供と翌日の朝食のサービスがついてきました。いろんな意味で思い出になりました。
4 滞在1日目
1歳の私は、私の父親がNIH留学時、一度Philadelphiaに来たことがあるのですが、全く覚えていませんでした。学会は7月28日(日)から始まっていましたが、滞在1日目はアメリカ誕生の地を自分の目で散策することにしました。気温は日本と同じくらいでしたが湿度が高くないため、体感はからっとしていました。午前中はホテル近くにある2か所のスーパーマーケット(Whole Foods Market:オーガニックな商品が多く売られている店舗、ACME Market:前者と比較すると庶民的な店舗)に行きました。カットフルーツや飲み物の大きさが日本と比べてはるかに大きかったですが、値段はそこまで高くはなかった印象でした。お土産の石鹸やナッツの詰め合わせを購入しました。昼食は本場のフィリーチーズステーキを食べようとしましたが、値段が高すぎたのでWhole Foods Marketにあるバイキング形式のランチボックスを購入しました。世界各国の料理ができたての状態で陳列され、自分の好きなものをトレーに入れる形式で味も良くリーズナブルな昼食でした。一旦、ホテルへ戻り、荷物を置いた後は歴史的建造物が多く立ち並ぶオールドシティーエリアに行きました。SEPTAを利用してJefferson駅まで行き、そこからLiberty Bellが展示されているLiberty Bell Centerまで商業施設が立ち並ぶChestnut St.を歩いて約10分で到着しました。道路は比較的きれいで治安は一見良さそうでしたが、物陰にホームレスが横たわっていて日本ではあまり見ない光景でした(アメリカもインフレの影響で貧困層が増加し、Philadelphiaの中心部から車で約15分のところにあるKensingtonには大量の麻薬中毒者が集まってくるそうです。道端で売人がコカインやヘロイン、フェンタニルを売り、それ目当てに麻薬中毒者が殺到し、頻繁に銃撃事件や殺人も起きているそうです。事件が多すぎて警察も検挙しきれない無法地帯だそうです)。Liberty Bell Centerは無料で入館できましたが、かなり厳重なセキュリティーを通って中に入りました。Liberty Bell Centerの隣には初代アメリカ大統領のGeorge Washingtonの銅像があるワシントン広場(Washington Square)や独立記念館(Independence Hall)があり、観光客には周りやすいエリアでした。帰りはSpruce St.を歩いてホテルまで戻りました。このエリアは赤レンガで建てられた建築物が多くアメリカらしい住居が多く、その中に偶然Pennsylvania Hospitalを見つけました。同じく赤レンガ使用のお洒落な病院で日本ではなかなか見られない医療機関だと感じました。
5 滞在2日目
2日目は朝から学会に参加しました。お城のような外観のPhiladelphia市庁舎(Philadelphia City Hall)の中央を通ってホテルと反対側に出るとすぐに学会会場であるPennsylvania Convention Centerに着きましたが、特定のストリート沿いのドアしか開放されておらず、入館に苦労しました。Registration deskでIDパスをもらい、展示会場へ向かいポスターを掲示しました。1日で1000以上のポスターが掲示されており、全てみるだけでも2時間以上かかりました。世界各国の大学名が並んでおり、ポスターデザインから研究内容まで色とりどりの発表をみることができました。「髄液コルチゾール濃度と認知機能・白質の厚さの関係」といった普段はなかなか思い付かない演題もたくさん見つけることができました。メインホールは、500人以上収容できる大ホールでantisense oligonucleotideというたんぱく質に注目した神経変性疾患の包括的研究に関する発表やTDP43のPET技術に関する研究など最先端の話題を聴講することができました。プレゼンターが壇上に上がる際はBGMと照明効果があり、日本の学会では見られない演出で驚きました。昼食はlunch box ticketでお弁当をもらいましたが、これも1000個以上あるようなお弁当の山が複数あり、Veganのランチボックスやサンドイッチ、寿司といった様々な種類が準備されていました。学会会場にはドリンクバーが完備されたStudent and Postdoc Loungeも準備されており、充実した1日を過ごすことができました。学会主催のgrant作成講座も開催されていたので拝聴することができました。15:30~16:15まではポスターに関するdiscussion timeとされ、あちこちで討議されていました。英語でどんどん質問をしている様子を見て、一瞬自分自身の英語力のなさを痛感しました。それでも高速原子間力顕微鏡 (HS-AFM) の操作方法やサンプル調整方法に関する質問を受け、そこからディスカッションができ、よい経験になりました。その後はホテルへ戻って早めに休み、早朝Philadelphia国際空港からChicagoのO'Hare国際空港を経て日本へ帰国しました。
6 発表演題
私のポスター演題(”Possible Mechanisms of Amyloid β-Protein Protofibrils for Acceleration of Aggregation”)では、ADの新規治療薬であるレカネマブがターゲットにするAβ protofibril (PF) の分子メカニズムに関する基礎研究の成果を発表しました。PFの構造多型のうち、globular-shaped Aβ oligomer (gAβO) に注目し、size exclusion chromatographyで精製したgAβO をlow-molecular-weight (LMW) Aβ42と反応させた際の凝集過程を解析しました。その結果、mature fibril (MF) seedsのない条件下では、gAβOがLMW Aβ42の線維形成を促進することが明らかになりました。一方、MF seeds存在下では、gAβOにおけるLMW Aβ42の線維形成への作用は変化してくることが明らかとなり、LMW Aβ42の2%量のMF seeds存在下では、gAβOがLMW Aβ42の2次核形成 (secondary nucleation) を抑制し、LMW Aβ42の10%量のMF seeds存在下では、gAβOはseedsからの線維伸長 (fibril elongation) には影響を与えないことを明らかにしました。さらに、高速原子間力顕微鏡 (HS-AFM) の解析技術を用いた単一線維レベルでの動的解析では、gAβOがLMW Aβ42における線維形成において反応不応期 (dwell phase) の短縮を伴って伸長速度を亢進させる効果があることを明らかにしました。gAβOはLMW Aβ42の線維形成において異なる構造を有する線維を形成するのではなく、その線維形成プロセスを促進させていることを明らかにしました。上記研究成果に関するポスター発表を行い、内容に関してディスカッションすることができました。
当科小野教授は、高感度イムノアッセイ法を用いて測定した髄液PF濃度に関する研究成果をDeveloping Topics Sessionで口演されました(“Lecanemab-associated amyloid-β protofibril is a proximal biomarker of neurodegeneration unlike other plaque-associated biomarkers”)。軽度認知障害及びAD患者群では、コントロール群と比較して髄液PF濃度が有意に上昇していることを明らかにしました。また、髄液PF濃度はtotal tauやneurograninといった ”neurodegenerative biomarker” と強い相関を示す一方、tau phosphorylated at 181 residue、Aβ42/40比、Aβ42濃度といった ”plaque-associated biomarker” とは相関を示さないことを明らかにしました。本演題は、PFがADの病態において神経変性のメカニズムに大きく関与していることを示す重要な発表になりました。
当科篠原先生は、Lewy小体型認知症(LBD)の血液バイオマーカーに関するポスター発表(”Plasma amyloid-β40/42 ratio can distinguish co-morbid Alzheimer’s disease pathology in patients with Lewy body disease”)を行いました。Aβ病理の合併あり/なしのLBD患者群における血清Aβ precursor protein669-711、Aβ40、Aβ42を測定したところ、Aβ病理の合併ありのLBD患者群で血清Aβ42 Aβ40比が有意に低下していることを明らかにしました。本演題は、LBD患者におけるAβ病理の合併を予測する血液バイオマーカーの有用性を示す重要な発表になりました。
7 最後に
今回のAAIC2024参加は3泊5日と余裕のあるスケジュールではありませんでしたが、アメリカ文化を体感しながら認知症研究の最前線を肌で感じ、いろいろな場面で英語でのディスカッション・会話ができ、非常に充実した学会参加となりました。日頃の研究や今後の活動に対するポジティブなモチベーションを得ることができました。また別の国際学会にも参加できるよう、日頃の研究活動に努めていこうと思います。
Figure and figure legends
Fig. 1 Philadelphia
自由の鐘 (Liberty Bell)(左上)、独立記念館(Independence Hall)(右上)、Philadelphia市庁舎(Philadelphia City Hall)(左下)、George Washington像(Washington Square)(右下)です。
Fig. 2 AAIC2024
学会会場のエントランス(左上)、会場(右上)、メインホール(左下)及び私のポスター演題(右下)です。