- HOME
- > 神経治療最前線 海外学会参加報告
- > 30th International Symposium on ALS/MND 2019
神経治療最前線 海外学会参加報告
30th International Symposium on ALS/MND 2019
30th International Symposium on ALS/MND
第30回ALS/MND国際シンポジウム
30th International Symposium on ALS/MND
Perth,Australia
4-6 December,2019
千葉大学大学院医学研究院 脳神経内科学
澁谷 和幹
30th International Symposium on ALS/MND
2019年12月4日から6日まで、30th International Symposium on ALS/MNDがオーストラリア・パースで開催されました。この学会の多くはヨーロッパやアメリカ大陸で行われますが、南半球で開催されたのは、2011年のオーストラリア・シドニー以来となりました。筋萎縮性側索硬化症(ALS)/運動ニューロン疾患に特化した世界最大の学会で、その学会誌はAmyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Degenerationとして知られています。今回の学会も、世界中から850名を超える参加者があったそうです。この学会の興味深い点としては、患者さんやそのご家族も参加されているということです。今回も、多くの患者さんが参加されておりました。また日本からも、基礎系、臨床系と運動ニューロン疾患を研究する多くの研究者が参加されておりました。臨床系の研究発表としては、以下のようなものがありました。
臨床経過
名古屋大学の熱田直樹先生からJaCALSデータに関する口演があり、本邦におけるALS診療体制の特徴や人工呼吸器装着に関する発表がありました。また、イタリアからのpopulation-basedの報告では、約20%の患者で症状の進行が止まるとの報告されておりました。私も、長期経過例において殆ど病状進行が見られなくなる症例を経験しておりましたので、大変興味深く拝聴させていただきました。また、アジアにおける運動ニューロン疾患患者と、欧米患者との違いに関する発表もありました。
ALSスペクトラム
鈴鹿医療科学大学の葛原茂樹先生からは、ALS-PDCの報告がありました。近年患者数が減少してきているが依然として発症が認められること、アメリカでも同様の家族歴があり同様の病理像を呈する症例の報告があるとことでした。アメリカの研究者からは、原発性側索硬化症(PLS)と痙性対麻痺(HSP)の比較検討報告もあり、HSPは下肢発症が多く、PLSは上肢や球発症が多いとのことでした。また、PLSの方が嚥下・構音障害が多く、HSPの方が感覚障害の出現が多いとの報告でした。
電気生理学的検査
経頭蓋磁気刺激検査(TMS)で測定される半球間抑制がALS患者で障害されており、これが筋力やALS functional rating scale(ALSFRS)、ALSFRSの低下率と相関しているとの報告がありました。また、Sydney大学に留学中の東原真奈先生の口演では、TMSで測定される運動皮質抑制の障害が、高次機能検査であるEdinburgh Cognitive and Behavioral ALS Screen (ECAS)のスコアと相関するとの報告がありました。
画像検査
C9orf72変異を持つキャリアーに脊髄MRIを行った研究では、キャリアーにおける白質体積の減少や白質線維路による拡散異方性の減少が報告されておりました。また、高速スピンエコーやマルチエコーデータ画像を用いた脊髄MRIで、ALS患者の脊髄の萎縮や白質線維路の減少を鋭敏に検出できるとの報告もありました。
バイオマーカー・代謝
TDP-43ハエを用いた研究では、解糖系の指標となるホスホフルクトキナーゼmRNAが増加していること、ホスホフルクトキナーゼを過剰発現させると、TDP-43が誘導する運動機能低下を改善させることが報告されておりました。ALS患者の血小板を用いた研究では、血小板中の代謝因子を調べ、酸素消費率が低下していたとの報告がありました。また更に、ミトコンドリア電子伝達系酵素複合体Ⅱの活性化がALS患者で上昇しており、これがALSFRS低下のスピードと相関しているとの報告でした。
このように、多方面からたくさんの研究がなされており、運動ニューロン疾患研究の進歩を感じることができました。また学会期間中に、“Global Walk to D’Feet MND”というイベントがありました。パース市内を流れるスワンリバー沿いを、MND symposiumとプリントされたTシャツを着て、学会参加者である研究者や患者が5km歩き、MNDについて啓蒙するイベントでした。日本の学会ではなかなか見かけない国際学会らしいイベントであり、たくさんの方が参加されておりました。
南半球の12月の季節は夏ですので非常に暑く、最高気温が42度に達する日もありました。元々日差しの強い国ですので、数分歩いていると汗だくになる状況でした。しかし、オーストラリアはワインや地ビールが盛んな国ですので、その分美味しいお酒を堪能することができました。学会期間中に、The Pan-Asian Consortium for Treatment and Research in ALS (PACTALS)というアジア・オセアニアの研究者により構成される会の、夕食会も催されました。普段あまりお話しする機会のない、日本・アジア人研究者の先生方ともお話しすることができ、交流を深めることができました。運動ニューロン疾患もその他の研究と同様に、欧米から多くの学術研究報告がなされています。一方、世界人口の60%を占めるアジア・オセアニアからの研究は、欧米からに比べると多くありません。学会期間中にも、アジアや日本のALSの特徴や診療に関する発表があり、我々が発信するデータの重要性を考えさせられました。日本を含むアジア・オセアニアの研究者が互いに協力し、より多くの研究成果を世界に発信するべきであると考えさせられました。
Figure1 学会場入り口
会場の規模としては、メイン会場は数百人入れる程度で、その他に100人程度入れる口演会場が2つありました。更に、大きなポスター会場が一つありました。
Figure2 パース市内の街並み
大きな近代的なビルディングに混じって、イギリス風の建物が建っていました。市内中心部はそれほど大きくなく、1〜2時間程度で歩いて回れる程度でした。