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神経治療最前線 海外学会参加報告
WPC 2019(5th World Parkinson Congress)
「患者の目で見たWPC」
JPC(日本パーキンソンコングレス)顧問
岡田芳子
「患者の目で見たWPC」
第5回世界パーキンソン病学会議、WPC 2019(5th World Parkinson Congress) が2019年6月4日〜7日、京都国際会議場で開催された。最初の日はプレゴングレ、開会式、レセプションが行われ、本会議はそのあとの3日間であった。
開催の日程については前回のWPC2016の終了時にすでに決定されていたが、実際に内容が分かり始めたのは開催の9か月前のことで、日本での開催についての広報がこのころに始まった。患者の参加登録費が事前登録で300米ドルと発表されていた。患者としては学会という形式自体に全くなじみがなく、過去のJPC(日本パーキンソン病コングレス)に2回参加した経験はあるものの、参加登録方が英語での説明ということもあり、日本の患者の間では参加意欲はほとんどなかったようである。また参加登録が個人単位であるため、クレジットカードを使って行うという当たり前のことができない患者が多かった。これまでJPCはパーキンソン病友の会との共同開催に近い形であったので、参加登録は支部単位でまとめて現金で支払うという形が多かった。しかも、今回は参加費が事前登録でも300米ドル、食事やコーヒー代が含まれているとは言うものの、4日間の宿泊費と交通費も含めると約10万円になる。さらに介護人の参加費等を加えると20万円であり、すぐにすんなりと出せる額ではなかった。
医学系の学会では当たり前のことであるが、プログラムの内容もなかなか公表されず、ポスター発表の募集のアナウンスメントも英語、発表も英語でということで日本人の患者にとっては敷居の高いものであった。日本の患者は自分の意見をまとめて発表するという場がほとんどなく、患者として自分の病気を知る、自分で考える、自分の意見を述べる、そしてさらに他の人と意見交換、情報交換をするということになれていないような感があった。
コングレスの内容について
会場である京都国際会議場が広く、廊下が長く、スロープやエレベータの位置など、歩行に不自由な患者にとっては辛いものがあった。目の前にある会場へ行くのに階段を上ることができず、ずーっと迂回していかなければならなかった。このような会議場は一般に障碍者のことはそれほど考慮に入れてないのが普通なので、仕方がないのかもしれない。加えて、プログラムの内容が非常に盛りだくさんであったため、全体として移動が大変であった。
外国人も日本人も患者も健常人も交じってのボランティアの人達であったが、いたるところで気配りをしていただき、ボランティアの人数からもその質の良さからも、日本が学ぶべきことが多いように思われた。WPCのようにいろんな職種の人が参加する会においては、ボランティアとして関わっていただくことで、患者のことをよく知り、どのような手助けが必要かということを考えてもらう良い機会だったことと思う。
発表のかなりの部分に同時通訳がついていて、また英語のスライドと日本語のスライドが併映され、日本の神経内科医の先生方のご協力があって初めてできることなので、そのご努力に感謝せざるを得ない。またメイン会場での講演にはスライドのハンドアウトを配布するなど、直前の奮闘には本当に頭の下がる思いであった。
また、患者が参加できるセッションはかなりたくさんあり、ウェルネスウエイというリラックスできるオアシス的空間を設けられており、自分自身を労り、よりよい生活を送るためのツールが提供されていた。リニューアルルームでは、交流型のプログラムがいろいろと用意され、太極拳、アルゼンチンタンゴ、ヨガ、ダンス、ボーカルトレーニング、ボクササイズ、PDフィットネス、卓球などに、当日申し込んで参加することができ、リハビリの一環として興味をひくものであった。その他にもクワイエットルームという休憩のための空間や、ケアパートナーラウンジもあり、そこでは介護者同士の話し合いもできるようになっていた。介護者は、患者の集まりに参加する場合でも付き添いの域を出ず、自分自身のことや介護者としての意見を発表する機会があまりないので、このような場を設けて、看護師、理学療法士、作業療法士なども加わると、介護の面からの意見交換もできたと思う。また、マッサージルームもあり、無料でマッサージのサービスを受けることができた。
開会式等への患者参加もあった。WPCの歴史の紹介、表彰などのほかに、セレモニーでのコーラスは、参加登録時に申し込みを受け付けており、そのあと何か月にもわたってパートの練習を重ねて出来上がったものである。また、元ダンサーで患者であるPamela Quinnの指導による、太鼓の音に合わせた創作ダンスには私も参加した。それには、世界の何か国もから患者や健常者が集まっており、練習から発表までを通じて、1つのものを作り上げる意義を感じることができた。
患者の参加で重要なことは、海外の人との交流であろう。外国の患者はどちらかというと経済的に恵まれた立場の人が多く、また介護人と一緒ではあってもある程度自立できた状態の人が多かった。一般的に明るく、病気に対する姿勢が前向きで、自分自身で積極的に情報交換、知識の吸収に取り組んでいるように見受けられた。
ポスター発表はすべて英語で発表されていた。ジャンルとしては基礎医学的な研究、臨床研究、理学療法士や作業療法士からの発表のほか、患者としての生き方や思いを伝えようとするポスターもあった。ただ、とにかく数が多く、2会場に分かれたこともあり、すべてを見て回ることは容易ではなかった。
その他には、2日目の夜には近接のホテルの宴会場でMusic & Movement Loungeという催しがあった。そこでは、約2時間にわたって音楽を主とした発表がが行われ、音楽に国境はないとの言葉通りにみんなが一体となって楽しむことができる場であった。
Exibit Hallでは各製薬会社のブースのほかに患者団体のブースがあり、いろいろな国の特徴を生かした展示がなされていた。また、ラウンドテーブルディスカッションが各日の午後に設定されており、「患者と研究者の2つの世界はどうすれば手を取り合えるか?」、「若年性パーキンソン病との上手な付き合い方」、「家族全体の問題としてのパーキンソン病〜パーキンソン病患者とその家族の幸福を考える」など、WPCならではの問題の取り上げ方に興味を持った。そこでは、ほとんどのテーブルには日本語の通訳がついていたので、日本人参加者にも分かりやすかったようである。ただ通訳が、話した内容を繰り返すことになるため、それに時間がかなり取られたため、ディスカッションをする時間が足りなかったとの声も聞かれた。多職種の人がテーブルに集まって話し合うというのは日本ではあまりないやり方であり、自分の意見を発表し、他の人と意見交換するということで、他国の医師の意見を聞くことができてよかったという声もあった。
とにかくWPCという会自体が大きな集会であり、しかも多職種の人が集まっているのでいろいろな分野に分かれるのは当然であるが、患者としては自分が何を知りたいか、何に参加するのかを予め下調べをして臨むべき会であると思う。
WPC本部の報告によれば、参加者数は全体で2777人、うち患者及び介護者1092人、医療関係者 987人、学生/ポスドク179人、付き添い39人、製薬会社や展示関係者 356人、その他125人であった。
日本の全体の参加者数は1037人であり、日本の医師、医療関係者の参加はそれほど多くはなかったように感じられた。ウィークデイの開催ということもあり参加が難しかったかもしれないが、患者と医療関係者が同じ土俵で言葉を交わせる場というふうに考えると、日本の医療関係者がもう少し多いとよかったように思う。
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