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神経治療最前線 海外学会参加報告

MDS International Congress 2017

International Congress of Parkinson’s Disease and Movement Disorders

長谷川隆文
東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座神経内科学分野

International Congress of Parkinson’s Disease and Movement Disorders
Vancouver, BC, Canada
2017年6月4日〜8日

1.はじめに

International Congress of Parkinson’s Disease and Movement Disorders(MDS 2017)が2017年6月4日〜6月8日の期間、カナダ・バンクーバーで開催された(写真1)。今年はJames ParkinsonがAn essay on the Shaking Palsyに最初のパーキンソン病(PD)患者を報告してから200年の節目に当たる年であり、会場にはその展示もみられた(写真2)。本学会はPDおよび関連疾患に関する世界最大規模の学会であり、例年本邦からも多数の参加者がみられ、今回は世界89ヶ国からから4300名の参加者があった。日程の都合で全日程の参加が叶わず、また大規模な学会故にチケット制のパラレルセッションが多く全ての演題を網羅出来た訳ではないが、筆者の目線で見た学会概要を報告したい。

写真1

写真1:
会場となったバンクーバー港に面したVancouver Convention Centre。2010年の冬季オリンピックに合わせて建設された施設である。大型の国際客船が停泊し、水上飛行艇が発着する大変素晴らしい場所にある。

写真2

写真2:
会場に展示されていたJames Parkinsonのportrait写真。同名をインターネットで検索すると異なる顔写真もヒットするが、別人であるといわれている。

2.Parkinson病を対象としたDisease modifying therapyの現状

本邦でも京都大学iPS細胞研究所(CiRA)が中心となりヒトiPS細胞からのドパミン産生神経誘導とその臨床応用に期待が高まっているが、海外でも別の観点からPDの疾患修飾療法(DMT)への取り組みが進んでいる。PDをはじめとする神経変性疾患では異常タンパクの細胞間伝播が病態基盤として重要視されており、細胞外αシヌクレインをターゲットとしたDMTの可能性に注目が集まっている。Baylor医科大学のDr. Jankovicのチームは、軽症から中等症のPD80名を対象としたαシヌクレインモノクローナル抗体療法(PRX002)の2重盲検プラセボ対象phase 1b試験の結果を報告した。PRX002は認容性が高く、単回投与で最大97%の髄液中αシヌクレイン量減少が得られた。現在phase 2試験に向けた準備が進んでいる。PDリスク遺伝子として最も頻度の高いゴーシェ病遺伝子GBA1に関しては、Northwestern大学のDr. Kraincは神経型ゴーシェ病のDMTに用いられている去痰剤アンブロキソールのPDへの応用の可能性について触れた(AiM-PD試験)。高容量のアンブロキソールは分子シャペロン作用によりリソソーム酵素であるグルコセレブロシダーゼ活性を上昇させ、αシヌクレインの凝集・蓄積を抑制する可能性が示唆されており、現在phase 2試験が進行中である。また、常染色体優勢遺伝形式PD(ADPD)で最も頻度の高いPARK8の原因遺伝子LRRK2に関して、NIAのDr. CooksonがLRRK2キナーゼ活性阻害剤によるPDのDMTの可能性について発表していた。

3.PDの共通病態-リソソーム・エンドソーム機能異常?

これまでに20以上の家族性PDの原因遺伝子が報告されているが、学会開催地のお膝元でもあるUBCのDr. Farrerらのグループが中心となり発見したPARK17 (VPS35)やPARK21(RME-8/DNAJC-13)などの複数のADPD関連遺伝子は何れもリソソーム・エンドソーム関連分子をコードしていることが判明している。これらの分子はLRRK2やRab7L1など他のPD遺伝子産物とも相補的な関係にあり、同機構の破綻がPD発症に至るcommon pathwayの一つではないのか?注目が集まっている。ケンブリッジ大学のDr. SeamanはVPS35やRME-8を構成成分とするレトロマー/WASH(Wiskott–Aldrich syndrome protein and SCAR homolog)複合体とよばれる細胞内輸送系の障害がエンドソームの管腔化(tabulation)障害をもたらし、積荷分子の輸送障害から神経変性を誘導する可能性を指摘している(写真3)。

写真3

写真3:
Matthew J Seaman博士の講演より。WASH複合体の構成分子RME-8/DNAJC13のサイレンシングにより、エンドソーム管腔化に異常が生じる。

4.MDS恒例行事のVideo ChallengeとGrand Round

今年の学会でも恒例行事のVideo ChallengeとGrand Roundが開催された。Video Challengeは映画Back to the Futureのマーティと、親友のブラウン博士(通称ドク)に扮したAnthony LangとKapil Sethiのコミカルな司会ではじまった。今年は順天堂大学からの発表を含め、世界から14例の提示があった。金メダルが贈られたのはアメリカチームで、髄液漏出による脳圧でhemichorea・hemiballismusを生じたという発表であった。以前は一生巡り会うことがないであろう希少な遺伝子変異による症例提示が多かったが、(一部から批判があったのか?)近年はより身近な疾患・病態が増えてきた印象である。もう一つのGrond Roundでは実際の患者さんが登壇し、海外のmovement disorderエキスパートの問診から診断に至るプロセスを生で拝聴できる試みで、大変教育的な内容である。

5.サテライトミーティング

本邦でも導入が進んできたDuodopa治療に関して、学会会場近くのStanley Parkで開催されたミーティングに参加した。手の行き届いたイギリス庭園を眺めながら、ワインと立食を取りながら、和やかな雰囲気で行われた(写真4)。海外の神経内科および消化器内科専門医から10年以上の経験について報告があった。毎週(!)入院にて同治療導入を実施されておられる順天堂大学の服部先生から、同大学での経験について実際の症例を呈示しながらのプレゼンテーションがあり大いに参考となった。

写真4

写真4:
Stanley Parkでのサテライトミーティング。平山正昭先生、下畑享良先生と談笑する筆者。

6.次年度の開催地変更について

事前情報では次年度のMDS開催地は韓国・ソウルであったが、昨今の不安定な朝鮮半島情勢のあおりを受けてか、開催地が香港に変更され、時期も秋に変更となった(2018 年10月5日〜9日)ことが会場でアナウンスされていた。

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