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27th International Symposium on ALS/MND 2016

27th International Symposium on ALS/MND

第27回ALS/MND国際シンポジウム
荻野 美恵子 国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター
研究分野:狩野  修 東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野
臨床分野:木田耕太 東京都立神経病院 脳神経内科

27th International Symposium on ALS/MND
Dublin/Ireland
2016年12月7日〜9日


 2016年12月7日から3日間にわたり、27th International Symposium on ALS/MNDがアイルランド共和国の首都、ダブリンで開催されました。昨年の温暖なオーランドから一転し、日中でも10℃を下回る寒さのダブリン(アイルランド)でした。

 本学会はALS/MNDに関するすべてのステークホルダーが集まり最新の情報を交換しています。患者会の世界組織が運営し、専門家がプログラムを作成していますが、多職種の臨床家のみならず基礎研究者、企業、患者等が “clinical session” と “scientific session” の二つのセッションにまたがり参加しているユニークな学会です。それぞれのセッションについては昨年同様、狩野先生、木田先生からご報告いただきます。

 本学会ではclosedの関連会議として毎年WFNのALS/MND research groupのミーティングが行われていますが、今年のテーマはstem cell therapiesでした。膨大な研究費がつぎ込まれ、それなりの侵襲のある治療ですが、全くよい治療効果が得られていない状況で、これ以上この研究を継続すべきなのか、という議論が、現に研究を行っている研究者も含め世界中から集まったALS専門家間で熱く議論されました。再生医療に期待をよせ渇望している患者に対してどうすることが誠実なのかが問われていました。今更ですが、限られた資源で効率よく治療法を見つける難しさを痛感するとともに、いつの日か(できれば近い将来)「あんな話をしたこともあったね」と言えるようになりたいと切望しながら参加していました。

【研究分野 -scientific session- 報告】

 前年より2つ増えた計24のオーラルセッションで、連日熱い討論が繰り広げられました。各テーマは毎回異なりますがRNAやバイオマーカー関連、さらには電話やインターネットなどを有効に使ったテクノロジー関連のセッションが増えた印象でした。私が注目した演題をいくつかご紹介します。

1.ALSのバイオマーカー

 “バイオマーカー”は分子(血清や髄液)やイメージング (CTや MRI)といった分類、また用途により診断、疾患予後、薬力学などに区別されます。creatinine、 coenzyme Q10さらにはneurofilament light chain などは疾患予後に対するバイオマーカーとして有用であったとの報告はありますが、治験薬効果をみる薬力学バイオマーカーは未だ存在していません。バイオマーカーセッションではプロテオーム解析、[11C]-PBR28 PETを用いたグリア活性の評価、またポスターでは髄液での評価がいくつか提示されていました。ただ診断は別としても、繰り返しみる必要がある薬力学バイオマーカーとしては、簡便で侵襲性が低い血液検査が現実的です。コストの問題も含め実現化にはもう少し時間がかかると感じました。クリニカルトライアルなどの他のセッションでも、毎回のようにバイオマーカーに関する質問がでており、今回のホットトピックの一つでした。

2.クリニカルトライアル

 昨年会場から拍手喝采を浴びた吉野先生の発表に引き続き、米国 Mitsubishi Tanabe Pharmaからエダラボンの継続試験結果が発表されました。二重盲検期(エダラボン vs プラセボ)後の24週間の継続期(全例エダラボン投与)の結果です。継続期終了後も効果は持続し早期治療開始が有効だと報告していました。二重盲検期のプラセボ群と全例エダラボンを投与した継続期との比較を含め、今後論文投稿予定とのことでした。

 その他Carolinas ALS centerのBrooks教授からイブジラスト、Kansas大のBarohn教授からラザジリンなどのphase 2の治験結果が報告されました。これまでの治験同様、サブ解析で何とか有意差を探すといった傾向が強く、発表者たちが “信頼できるバイオマーカーがあればより早期に診断でき、大規模な治験が行える” と嘆いていたのが印象的でした。

3. 神経炎症を抑える新たな治療

 ALSモデルマウスの研究において制御性T細胞(regulatory T cell: Treg)が神経保護効果を示すこと、またTregは病初期に上昇し進行期に低下することが判明しています。さらにALS患者の血液中のTregやFoxp3(Tregのマスター転写因子)量が、進行の早さや生存期間をも左右すると言われております。私の以前のボスでもある Houston Methodist の Appel 教授らは、ALS患者から採血を行い、Tregを体外増幅しそれを自己移植することによってALSの進行が抑制されたという研究成果を発表しておりました。ALSの進行を遅らせる新しい免疫細胞療法として今後の進展に注目したいです。

 また会期中のSatellite meetingとして第4回のPan Asian Committee for Treatment and Research in Amyotrophic Lateral Sclerosis (PACTALS)会議が開催されました。重要な課題の一つとしてアジア人特有の遺伝的背景の研究があげられますが、財源の確保などが不透明で今年のWorld Congress of Neurology (京都)でのSatellite meetingでの課題になりそうでした。

写真1: ライトアップされた学会場のThe Convention Centre Dublin

写真2: 学会場にてAppelラボの同窓会:左から著者、Appel夫妻、大阪医科大学 木村文治教授

(狩野)

【臨床分野 -clinical sessions- 報告】

 Clinical sessionsではALSの疫学、臨床神経生理や画像診断、呼吸・栄養管理などのテーマについて活発な討議が繰り広げられていました。今回は、多職種連携や、ケア、対症療法などについても大きなボリュームが割かれていたのが印象的でした。以下、私が注目した発表をいくつかご紹介したいと思います。

1. 栄養管理と代謝

 Forbes Norrris ALS/MDA Research and Treatment Centerより発表された、過去の臨床試験の大規模コホートに基づいた後方視的研究では、嚥下機能が保たれている患者群では、胃瘻造設により体重減少を食い止めることはできるが、呼吸機能などの症状進行を抑制することや、生存期間を延長することはできないとの結果が示されました。早期の胃瘻造設により体重減少を食い止めることは、生存期間の延長に有用であるというこれまでの認識とは異なる結果であり、少なからず衝撃を受けました。実際に、早期胃瘻造設を行う意識は日常臨床では一般化されており、今後の更なる検討が必要と考えられました。

2. 臨床試験

 昨年のエダラボンに続くインパクトのある成果はなかなか厳しい印象です。ALSに限らず、神経筋変性疾患全般にいえることですが、早期診断・介入の重要性と難しさを再認識致しました。また、人種・地域による遺伝的背景をはじめとした疾患の多様性も含め、worldwideな臨床研究のみならず、地域における特性を考慮した研究・開発の必要性についても改めて認識致しました。

3. QOL

 北里大学の荻野美恵子先生が座長を務められたセッションです。 生存期間の延長、治癒は大きなテーマですが、QOLの向上も同様に大切です。発表者の所属する機関・地域文化背景により結果は様々でありましたが、セッションを通じて共通のテーマとしては、罹病期間や、病気の進行自体より、療養環境やケアの質、心理的側面がよりQOLにとって重要であること。また、患者自身はもちろん、介護者のQOLも維持・向上することが患者、介護者双方にとって重要であること強調されていました。

 今回も朝から、ランチを挟み夕方、夜のポスターセッションまで飽くことなく刺激的な演題を聞くことができ、とても実りの多い3日間でした。冬、そして北緯50度以北ではあるものの、ダブリンの気温は東京と大きく変わらず、また湿度が高めであったためか、厳しい寒さは感じず過ごしやすかったです。学会場が街の中心から徒歩圏内にあり、朝夕の行き来や、昼のブレイクに市内見物を楽しむこともできました、clinical sessionsの口演やポスター発表では、患者ケア、QOL、呼吸・栄養管理などについて多くの話題が取り上げられており、介護、多職種連携やQOL向上のための対症療法についても多くの発表がありました。ALS/MND患者さんが会場に自然に溶け込んでおられ、“ALS/MNDと生きている” 実体験に基づいた意見や、今後の研究の進歩、新たな治療法開発への切実な希望を訴えておられたのが印象的で、日々の臨床で少しでも還元できればと決意を新たにしました。

写真3: 学会場のThe Convention Centre Dubinから見えるリフィー川 (River Liffey) とダブリン市街

写真4: clinical sessionの様子

写真5:「ケルズの書」が所蔵されているTrinity collegeの図書館 “The Long Room”

(木田)

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