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欧州多発性硬化症学会(ECTRIMS)

32nd European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis

順天堂大学医学部脳神経内科 横山和正、服部信孝

32nd European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis (ECTRIMS)
London / United Kingdom
2016年9月14日〜17日

はじめに

第32回ECTRIMS(European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis)が2016年9月14日からロンドンで開催された。
会長はUniversity College London のDavid Millerである。東京と同じような気候の中100カ国、9392人のMSに携わる医療関係者が世界中から集まった。Brexitの影響もなく気候含め穏やかな4日間であった。
さて、イギリスは過去 MS 領域において多くの名医を輩出している Dawson’s finger で有名な James Dowson、MS の教科書で有名な Douglas McAlpine, 診断基準で有名な Ian McDonald である。今回の学会ハイライトは遺伝および環境因子、早期治療、長期治療効果、B細胞除去治療、自然免疫療法、神経保護と再生、予後因子、画像診断アップデート、であった。順不同で述べる。

1)RRMS治療ガイドライン http://www.ectrims-congress.eu/
EAN(European academy of Neurology)とECTRIMS共同で作成したRRMS治療ガイドライン 保守的な立場からエキスパートがまとめたどちらかというと一般医のための指標である。

The entire spectrum of disease-modifying drugs should be prescribed only in centers that have adequate infrastructure for the comprehensive assessment of patients and the ability to detect side effects and promptly address them.
For patients with CIS and abnormal MRI findings, consider interferon or glatiramer acetate.
Offer early disease-modifying treatment to patients with active relapsing-remitting MS, defined as the presence of relapses or MRI activity.
The choice among the wide range of available drugs depends on patient characteristics and comorbidities, disease severity/activity, drug safety profile, and accessibility of the drug.
Perform regular MRI and clinical assessment to monitor disease activity, and offer more efficacious drugs to patients who show activity while receiving interferon or glatiramer acetate.
If a highly efficacious drug is stopped, consider another highly efficacious drug.

Susana Otero, MD, MS Center of Catalonia, Spain
Late breaking news Abstract 255
日本では欧米のエビデンスをもとにMSガイドラインが来年発表される。

2)長期経過観察では1950年代からの Scandinavian の国家データ、イタリアの registry データ解析も興味深かったが、国境のないネット上の MSbase はなんと約41000人の世界の国々の患者データを集めて解析を行った。メッセージとしては DMD(disease modifying therapy) の登場で患者数は増えても EDSS(expanded disabilitys status scale) は軽くなっていることである。MSbase は特に2015年特定疾患の基準がかわり連続性が失われた日本のMS患者疫学のためにも、今後有用であると考えられる。もちろん最初の入力が大変そうである。Abstract 212

3)環境要因
疫学の面ではビタミンD低下と喫煙の影響が報告されたがもともと低 VitaminnD では SPMS になりやすく死亡率も高いというデータは衆知であったが、喫煙とビタミンDとの関係で今回460名の CIS患者で15年間の前向き研究が行われた。その結果活性化ビタミンDが8ng/ml 以下では正常(20ng/ml)と比較して進行リスクが二倍となった。喫煙者は2.5倍リスクがあがった。ただし CDMS(clinically definite multiple sclerosis) になる事に関しては有意ではなかった(HR1.4)。Oral presentation 252; oral presentation 258.
また、SOLAR studyは、 血中25-hydroxyvitamin Dが150nmol/L以下の患者が生理的上限を超える高濃度のVitaminn D3(cholecalciferol oil 14000 IU; 350 μg)投与ないしプラセボ群にわけ48週間、219名のRRMS患者で二重盲検試験を行った。NEDA の有意差は認めなかった(37.2 vs 35.3% p=0.912)が、MRIでは32%効果を認めた。18才から30才までに限るとT1病巣の増加がなかった。副作用に関して観察期間内では安全であり、今後腎障害、結石などに注意しながらインターフェロンβ、GA治療などへのadd on などでは意味がある可能性がある。Abstract 166

4)MS病態のマーカー
髄液はすでに各種神経変性疾患で重要視されているが、フィンゴリモドとプラセボを比較したFreedoms試験の際に並行して行われた。血液中のNeurofilamentのlight chins(NFLs)が149名のRRMSと29名のHSとで検討され、MSでは28.1 pg/ml HS12.5 pg/ml(p<0.001)。造影を認めない患者では23.9 pg/ml、3個以上造影がある患者では55.9 pg/mlであった。EDSS3以上、炎症が強い症例、造影、T2病巣の拡大、脳萎縮率、再発と有意に関連する。
Parallel Session 14: Late-Breaking News, oral presentation 249; and Plenary Session 2, oral presentation 258.
またCISからCDMSへの優位な髄液の予見因子はNFsLが有意であったがCHI3L1(chitinase3L1)や総タウでは差はなかった。P594.
髄液採取が日本ほど簡易に行われない欧米では血液で予見できることは重要である。

MR-PETで炎症を解析
ハーバードのグループはMRIから3Dイメージを作成しそれを11C-PBR28-PETと合成しミクログリアの活動度を視覚化した。皮質および白質の炎症の比較をおこなった。RRMS、PMSは同様であるがPMSはより皮質の炎症が目立っていた。SUVR(standardized uptake value)はMSで上昇しDVR?と相関した。身体機能障害とも相関した。P1069

5)S1P1受容体作動薬
フィンゴリモドの長期効果
ACROSS Novartis
フィンゴリモド塩酸塩はすでに全世界で343000 patient year で使用されているが、10年の経過観察のデータでもフェーズ2から継続治療EDSS、車椅子使用、SPMSへの進行に対して有意であった。しかし日和見感染としては0.084/1000patient /yearでクリプトコッカス髄膜炎、PML は0.039/1000 patient/yearであり死亡例はなく非常にまれという説明があった。Satellite symposia
ナタリズマブによるPMLよりは稀で予後も今のところ死亡例はないが日本ではフィンゴリモド使用患者5000名ですでに2人のPMLが報告されており注意が喚起される。

選択的S1P1作動薬の治験
Siponimod (BAF312) EXPAND study Novartis
フィンゴリモドよりさらに選択的なS1P1受容体作動薬でありS1P5にも作動する。31カ国、1651名、SPMS1105人 プラセボ546名で行われた。83%の1363名が治験を終了した。治験前の再発の有無によっても検討されたがいずれの群も効果を示した。国内では参加するも十分症例が集まらなかった。EDSSは3-6.5平均5.4前後の18-60歳(平均年齢48才)で、平均発病から8年経過している。SPMSになってからは3.5-3.8年である。実薬群は漸増し毎日2mg経口投与を行った。Primary endpointは3ヶ月の時点でのCDP(confirmed disease progression)は21%であり(HR0.79 p=0.013)あるがsecondary endpointの6ヶ月CDPでは26%(HR0.74 p=0.006)。12,24ヶ月でのT2 lesion volume、脳容積、ARR(anuualized relapse rate)は有意に改善したが25FWTは有意ではなかった。若年で発病から経過年数が短い場合より効果がある。選択性以外では半減期が短いところがフィンゴリモドと異なり使用しやすいかもしれない。副作用は非特異的感染であった。Abstract 250
https://www.novartis.com/news/media-releases/novartis-announces-positive-phase-iii-results-showing-efficacy-baf312-patients

6)薬剤効果の評価指標
患者への治療効果の指標としてNEDAが有名だがIFNに対してのMRI変化は必ずしもあてはまらないことからMEDA minimal evidence of disease activityをMRIで活用する報告がRomaからあった。Abstract24

7)B細胞治療
Ocreliumab Roche
CD20に対するモノクロナル抗体であり、RRMSに対しては過去にOPERA1,2で効果が報告されているが、そのサブ解析によりRebifという国内では未発売のインターフェロンβ1aとの比較で96週のNEDA達成率が75%も勝っていた。24週で33%、96週で72.2%維持された。
ORATORIO Roche P1593
Phase3臨床治験で、2週間毎に732名のPPMSに対して600mgを300mg1日1回2週間間隔で2回静脈注射投与される。実薬は461名でプラセボは230名でその後は24週間隔で投与された。120週の観察でNEP (confirmed disability progression, walking speed and upper extremity function)をもってNEDAに似た評価基準とすると、少なくとも12週間で有意に維持され, T25-FW, 9-HPTの悪化は20%以下に抑え、120週のNEPを47%増加させた。P746, P720, P1011, P1248, P1180, oral 167,
http://www.roche.com/media/store/releases/med-cor-2016-09-14.htm
精神面や疲労などSF36といった患者健康関連QOL(HRQOL: Health Related Quality of Life)の改善ももたらした。 P1278, P1279

8)SYNERGY Biogen
Lingo-1という髄鞘と軸索の再生の障害因子として考えられている。Biogenはそれに対するヒト化抗体を作成し(opicinumab;BIIB033)今までのMS治療の観点とは異なりremyelinationに期待をもちPhaseIIbの二重盲検試験SYNERGYを行った。18-58才のEDSS2-6の418名の参加のうち330名がRRMS、88名がSPMSであった。主要評価項目は、EDSS、T25FW(Timed 25-Foot Walk)、9HPT(9-HolePeg Test), PASAT-3(3-Secondpaced Auditory Serial addition Test)である。3、10,30,100 mg/kgの静脈投与を週に一回行い、かつインターフェロン治療との併用では72週において40才以下、発症から8年以下では3,10ないし30 mg/kgでは一部有意であるが総体として主要評価項目に有意差を認めなかった。
Parallel Session 9, oral presentation 192.

9)MSbase
Alemutuzumab治療5年とその他の治療薬との比較についてMS baseというオンラインデータベースで41000例の患者データをsurvival model, paired negative binomial modelで解析した。RRMSでDMD投与され発病後10年以下、EDSS5.5以下の患者を抽出した。Alemutuzumabは189名の患者がおり、10-15%が2ないし3回投与を受けていた。2155名のIFN、828名のフィンゴリモド、1160名のナタリズマブ患者と比較した。インターフェロン使用患者218名との比較では再発に関して(HR0.42 p<0.001)であった。EDSSに関しては導入前の活動度が高い場合は差がある(HR0.64 p=0.016)であった。フィンゴリモドとの差については年間再発率(p=0.001)であるもEDSSは劣る傾向があった。(HR 1.27)。またナタリズマブとの再発の差はないが(HR1.33)、EDSSに関してはHR0.8 P<0.001であった。特に最初のEDSSの改善が最初の1年間で有意であった。(HR0.35 p<0.001)cognitionの評価や副作用の把握が困難であるが実臨床のスポンサーがない事実を反映する点において今後も重要となるであろうし日本のデータ構築にも検討課題である。Abstract 251 212
Alemutuzumab関連として6年の投与後のCareMS1試験の結果が報告された。 未治療患者への投与である。
57%がfree of disease activityであり86%が臨床的に、66%がMRIで活動性が認められなかった。他の先行するDMDでbreakthroug後から治験薬投与開始の CareMS2ではARRは0.15であり43%でdisabilityが改善した。脳萎縮に関しても健常人同様0.2%以下であった。さらにおどろくべきにはCareMS1,2それぞれで63%、50%の患者は初年度のみの治験薬投与であった。Alemutuzumabは多くの国ではミトキサントロンなどと同様3番目の選択薬であるが、早期使用が強調されていた。副作用に関して2.6%(21名)がITPとなった。その他腎症、甲状腺疾患がある。Abstracts 168, 213, P1150, and P1181.

10) Fluoxietin on Progressive MS
25-65才、183名参加で137名の進行型MSに対して20、40mgの投与が行われ12週でのT25-FW、9-HPTが行われた。解析するもトレンドのみであった。108週の観察で副作用は重篤ではないが目の障害、重篤なものとして神経、皮膚障害があった。PPMS, SPMSのサブ解析はされていない。短期間、少人数であり有意差が出にくいとの見解もあるが、抗うつ作用としてのMood motivation程度の可能性は否定できない。
Parallel Session 14: Late-Breaking News, oral presentation 253; and Plenary Session 2

11) リハビリテーションの効用については
入院後直ちに4週間行い、退院後5ヶ月は行う事が重要である。
またtelerehabilitationは通院でのリハビリにひけをとらないことも報告された。
Abstracts 116 and 120.

12)ENHANCE Biogen
Prolonged fampridine 10mg 1日2回投与を24週間観察した。参加したのは18-70才までのRRMS, PMS、EDSS4.0-7.0である。636名を319プラセボ317実薬にわけて行った。主要評価項目はMSWS12が8ポイント以上で(P=0.06)と特に2週間で効果目立ち、24週の投薬終了後の2週目のフォローアップでは結果が無くなっている。副次評価項目も有意であった。死亡は両群にあったが、それ以外特に大きな副作用はみられなかった。Oral presentation 254.

13)ASCEND Biogen
SPMSに対してのPhase3臨床試験(ASCEND study)のサブグループ解析。
ASCEND studyはEDSS 3.0-6.5、2年以上進行している患者で、実薬439、プラセボ448で2年間の治験である。サブグループ解析で、EDSSが高い(≧6)群では9HPT(9-HolePeg Test)がどちらかの上肢機能で有意となり (OR0.55)、治験前の過去1年間、2年間で再発がない群でも有意であった。治験前の造影病変の有無に関わらずいずれも有意であった。
Poster 1656.

14) social issues
今回のシンポジウムでは車椅子状態つまりEDSSで7以上の患者に新しい治験を行うべきかどうかについてdebateが行われた。CompromiseはすべきではないとPatricia K Coyleが力説した。しかし合併症を減少するためのリハビリ含めた対症治療は効果が少ないこともあり、開発途上のCNSリペアー治療はまだ選択肢として残されるべきであると結ばれた。このdebateはネット公開され同時に聴者からのコメントが会場で提示された。
NEDA含めてEDSSは評価方法として多用されているが、移動能力メインの指標であるため、脳萎縮や髄液のNFLsが今後進行型MSでは有効な指標として期待される。さらに、治療のみではなくEDSS7以上では就業、QOL、ケア、治療費などの金銭的な点も検討すべきである。また客観的指標と同時に測定されることの多いPatient reported dataはいわゆるclass 5 evidenceでしかないが、未だそれに変わる最善の方策はない。医療従事者と患者とのコミュニケーションが重要である事が力説された。
症状経過ともにvarietyに富むMSでは治療に関してもescalation,inductionどちらが良いかについてもあらゆる場で議論された。

Pure relapsing-remitting MS, age under 40 years
Two or more relapses within the previous 12 months or a severe relapse resulting in an EDSS score greater than 4
A worsening EDSS score due to relapse (an increase of 2 or more points within previous 12 months) or two or more additional gadolinium-enhancing lesions on recent MRIはinductionを優先させる方がよいという提案もあった。

ここで大事なのは個々人の見極めであり経験を元にしたindividual 治療、その後の効果判定、副作用予防しかないように思われる。

最後にECTRIMSは年々規模が大きくなりすべてのセッションに参加することはできなくなってきたものの、大規模臨床試験の報告や新しい診断治療、副作用などの知見が発表され数多くのレクチャーや教育講演が行われる。また今回は多職種連携の点からも第21回Rehabilitation in MSとのJoint開催でもある。AAN(annual meeting american academy of neurology)と比べて基礎関係の発表は多くはないし、現状では日本からの参加者は多いとは言えないがAAN同様MS後進国日本では診療updateのためにも重要な学会であり今後も神経内科医若手のさらなる参加が望ましい。

略語
NEDA
1)臨床的な再発a patient has no relapses
2)EDSS進行no confirmed disability progression
3)MRI no gadolinium-enhancing MRI lesions and no new or enlarging MRI lesions.
25-foot walk test (T25-FW)
9-hole peg test (9-HPT).
PASAT-3(3-Secondpaced Auditory Serial addition Test)3

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