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26th International Symposium on ALS/MND 2015

26th International Symposium on ALS/MND

第26回ALS/MND国際シンポジウム
荻野美恵子 北里大学医学部附属新世紀医療開発センター
         横断的医療領域開発部門包括ケア全人医療学
研究分野:狩野 修 東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野
臨床分野:木田 耕太 東京都立神経病院 脳神経内科

26th International Symposium on ALS/MND
Orlando/USA
2015年12月11日〜13日


 今年もALSの学会としては最大の上記学会に参加してきました。アジアからはなかなか口演に選出されないのですが、今年はClinical Trailのセッションに日本から2題(エダラボン療法およびメチルコバラミン大量療法)発表がありました。ALSのような希少性難治疾患に対する治験ストラテジーの方向性を示した発表として注目されたと思います。学会の内容については昨年に引き続きscientific sessionを狩野先生に、clinical sessionを木田先生にご報告をお願いしました。

 国際学会は学問的な見識を深める意味でも重要ですが、国内では十分にお話しする時間がない先生方とも、リラックスした気持ちで交流が持てる場でもあります。この学会では毎回故中野今冶先生のお声かけで日本から参加の先生方とご一緒し、そこからまた新たな出会いと刺激をいただいておりました。もうご一緒できないと思うと残念でなりません。同じ思いの先生方も多く、「中野会」と称して毎年集まりましょうということになりました。

 かつて自分がそうであったように慣れない国際学会に心細い思いで参加している若い先生方もお誘いし、酔っぱらった中でもALSの研究を熱く語る先生がたに接する機会を持ち、少しでも進歩した研究を心の中でご報告することが中野先生への御恩返しかなと思っております。

写真1:中野先生へ

【研究分野 -scientific session- 報告】

 2015年12月11日から3日間にわたり、第26回ALS/MND国際シンポジウムがアメリカのオーランドで開催されました。オーランドと言えばディズニーリゾートをはじめとした全米屈指の保養・観光都市として有名です。ただこれらに興味のない者にとっては、温暖で誘惑のない最高の学会地でした。
 さてscientific sessionの方ですが、C9orf72、TDP-43などのALS関連遺伝子に関する報告、さらにはALSの進展(spread)に関する発表が多く見受けられました。私が注目した演題をいくつかご紹介します。

1. ALS/FTDにおけるC9orf72の意義

 C9orf72遺伝子のもつGGGCCリピート配列の延長は家族性ALS/FTDの原因として欧米では最も多い(日本ではまれ)とされていますが、この蛋白質が一体何をしているのか、またいかにして神経変性を引き起こしているのか未だ謎です。一説にはイントロンに存在するGGGGCCリピート配列がジペプチドリピート蛋白質(DPRs)へと翻訳され、その毒性が病態に影響しているのではないかと考えられています。今回UT Southwestern Medical CenterのMcknightらは、C9orf72遺伝子変異をもつマウスを用いてDPRsの分布を観察しました。結果、DPRsはマウスの年齢、リピート数に比例して中枢神経における凝集が増加してみられましたが、一方でより病変と関係ない部位で増加する傾向にあったと報告していました。
 脳に蓄積する蛋白質の本態を解明することは極めて重要で、治療法にも直結します。ただ彼らの結果からC9orf72蛋白質の機能をDPRsのみで説明するのは困難かもしれないと感じました。

2. TDP-43の分布と臨床表現型

 ALS 、behavioral variant FTDやアルツハイマー病において、リン酸化されたTDP-43は核の外にでて細胞質内で封入体を形成しています。Neuroscience Research AustraliaのTanらは、TDP-43の分布を疾患別に検討していました。すると舌下神経にTDP-43がみられると98%の確率でALS、一方帯状回前部にみられると99%の確率でbehavioural variant FTDであったそうです。TDP-43 proteinopathyという観点からよりシンプルなstage分類、病理診断が可能であると提言していました。

3. ALSの進行に関して

 ALSの進行を規定する要素として、最初の運動障害部位、上位と下位運動ニューロンにおける拡がり、そして進行の速さが挙げられます。運動ニューロンを中心に時間的、空間的な障害の拡がりがみられ、パーキンソン病でもいわれているようなプリオン仮説を唱える論文も散見されています。恐らく2007年のRavitsらの論文(Neurology)からALSのspreadが多く論じられるようになり、今回の学会でも同様の結果が多数報告されていました。脊髄や脳幹内での上下方向の進展より、近接する対側方向への拡がりを示す場合が多いのが特徴でもあり、これらの症候学的知見から現時点では細胞間での異常蛋白伝播説がより有力のようでした。一方ALSモデルマウスでのdying-back説、ALS患者におけるLRP4抗体陽性例の報告から、運動ニューロンにおける神経保護因子の軸索輸送障害や神経筋接合部の障害なども同時におこり、その傷害の程度が臨床的多様性として観察されていると推測されていました。

 今年で6回目の参加でしたが例年以上にALS患者の参加者が多い印象でした。日本との時差が13時間で睡魔との戦いもありましたが、隣に患者が座っている状況で眠ることは許されないと目をこすりながら参加しました。治験中の薬剤に対し、患者から“いつ実用化されるのか”と切実な質問を耳にし、改めてALSの解明・治療に向け努力を続けなければならないと痛感しました。
 また昨年に続きシドニー大学のMatthew Kiernan教授らから、Pan Asian Committee for Treatment and Research in Amyotrophic Lateral Sclerosis (PACTALS)のmeetingが呼びかけられました。名古屋大学の祖父江教授や徳島大学の梶教授が、アジア人特有の遺伝的背景を調べ治療に役立てたいと提言され、各国の研究者も賛同していました。
 最後に今回の学会の最高の思い出は、コロンビア大学の三本博教授と会食させていただいたことでした。母校の大先輩として叱咤激励を受けながら私も夢中になってお話しさせていただきました。海外の厳しい一流大学で長く仕事を続けることがどれだけ大変か、私には想像もつきません。頂いた貴重なアドバイスを今後の人生に役立てたいと思い帰国の途につきました。

写真2:オランダのALS患者Mullerさんのご講演。
ALSの研究・治療開発を促進させるための企業(TREEWAY)を自身で設立されています。

写真3:オーランドの日本料理店にて。左から岩崎泰雄先生、三本博先生、筆者

【臨床分野 -clinical sessions- 報告】

 2015年12月11日から3日間にわたり、26th International Symposium on ALS/MNDが米国フロリダ州オーランドで開催されました.ALS/MNDに特化した学会としては世界最大規模とされ、世界中から多くのALS関係者が集結しました.本学会は患者会が主催し、医療関係者と共同して計画・運営している大変ユニークな学会です.発表は医師のみでなく多職種が参加して行われ、主としてscientific sessions, clinical sessionsの2会場で発表・議論が展開されました。

 Clinical sessionsでは患者ケア、疫学、臨床神経生理、画像診断、呼吸・栄養管理などのテーマについて活発な討議が繰り広げられていました.今回は、遺伝カウンセリングや、前頭側頭葉型認知症をはじめとする認知機能、感情・情動に関わる症状などについても大きなボリュームが割かれていたのが印象的でした.以下、私が注目した発表をいくつかご紹介したいと思います。


1. 呼吸サポート

 1998年から2015年の間での、デンマークのALS患者における人工呼吸管理と終末期における意思決定についての報告ですが、
 非侵襲的人工呼吸(non-invasive mechanical ventilation; NIV) およびそれに引き続く家庭での侵襲的人工呼吸(invasive home mechanical ventilation; IHMV)は、特に若年患者において良好な生存期間が得られる.そして、NIV, IHMVを導入するにあたっては、本人・家族の事前指示行うことが最も大事であり、IHMVを受けている患者においては、12例の打ち切った症例を提示して完全閉じ込め状態(totally locked-in syndrome)に至った場合などは、事前指示に基づき十分な鎮静下での苦痛のない人工呼吸器の打ち切りを行うことは医学的・法的・倫理的に適切であると結んでいました。
 本邦においては、現時点で人呼吸器装着後の打ち切りは許されてはおらず、それゆえに人工呼吸器の装着を躊躇する、諦める患者さんも少なからずおられると考えられます.治療の打ち切りの是非については大変難しい問題ですが、十分な検討がなされ、法的・倫理的に認められれば患者さんの不本意な死を少なくすることもできるのでは、とも考えさせられました。

2. 臨床試験

 本セッションでは、本邦から2演題が採択されました.吉野神経内科クリニックの吉野先生よりエダラボンの第Ⅲ相試験の結果が、徳島大学の梶教授よりメチルコバラミンの第Ⅲ相試験についての報告がなされ、活発な討議が繰り広げられました.特にメコバラミン治療のきっかけが、ALS患者の線維束性収縮の抑制が経口摂取では得られず、静脈注射でのみ得られるという臨床所見であったという点でありました。日常診療の中の小さな疑問が、研究・治療法開発への大きなヒントとなり、結実するきっかけとなると大きく勇気付けられました。

 今回、私は本学会へは三度目の参加でした.朝から、ランチを挟み夕方まで飽くことなく刺激的な演題を聞くことができ、とても実りの多い3日間でした。
 クリニカルセッションでは患者ケア、QOL、呼吸・栄養管理などについて多くの話題が取り上げられており、特に医師以外の多職種の発表も多かったことに改めて感銘を受けました。ALS/MND患者さんが会場に自然に溶け込んでおられ、通路側の席で講演を聴講していると、患者さんの車椅子が隣となることもしばしばありました.発表の内容は患者さんにとっては辛い内容も多い中、積極的に質問や、“ALS/MNDと生きている”実体験に基づいた意見や、今後の研究の進歩、新たな治療法開発への切実な希望を訴えておられたのが印象的でした。

 

写真4,5:南国の見事な青空の下、師走であることを忘れさせる屋外でのcoffee breakの様子。

写真6:米国ではALSはルー・ゲーリッグ病とも呼ばれます。バット持つルー・ゲーリッグの右手は痩せています。

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