一般の方へ

25th International Symposium on ALS/MND 2014

25th International Symposium on ALS/MND

第25回ALS/MND国際シンポジウム
研究分野:狩野 修 東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野
臨床分野:木田 耕太 東京都立神経病院 脳神経内科

25th International Symposium on ALS/MND
Brussels / Belgium
2014年12月5日〜7日

(研究分野 -scientific session- 報告)

 2014年12月5日から3日間にわたり、第25回ALS/MND国際シンポジウムがベルギーのブリュッセルで開催されました。今年は一世を風靡した“Ice Bucket Challenge”がオープニングでも話題になり、30ヶ国で1億4500万ドル以上の寄付が集まったと報告されていました。

 さてscientific sessionの方ですが、昨年同様C9orf72、TDP-43、FUSなどのALS関連遺伝子に関する報告、さらにはRNA代謝異常や、antisense oligonucleotides(ASO)を用いた治療法の発表が多く見受けられました。私が注目した演題をいくつかご紹介します。


1. ALSにおける抗体・ASO療法の進歩

 ALSは蛋白質ミスフォールディング病であるともされていますが、免疫療法の進歩としてTDP-43やFUSによって導かれミスフォールドしたSOD1に培地上で抗体を用いることによって、細胞間の伝播が抑制されたとBritish ColombiaのPokrishevskyらのグループが報告していました。またC9orf72に関しても、有害な毒性RNAの産生が病因としての役割を果たすと言われ、毒性RNAをターゲットとするantisense oligonucleotidesの有効性が示唆されていました。抗体やASO療法は有望な治療法として盛んに研究されていますが、中枢神経へのドラッグデリバリーの問題も同時にクリアしなければならないと感じました。

2. ALSのdouble transgenicモデルマウスの研究

 神経変性疾患に関連する蛋白質凝集体は患者ごとに様々な立体構造を経ており、これらの相違が臨床症状の多様性に関与していることが明らかになってきています。Umea大学にご留学中の徳田先生のグループでは、ヒト変異SOD1凝集体の立体構造は少なくとも2つのstrain に分類できることを見出しています (strain A および strain B) 。今回、SOD1モデルマウスのmutant strainの違いがSOD1蛋白質の凝集および表現型に、どのような影響を及ぼすのか報告していました。Strain Aおよびstrain Bを共発現したdouble transgenicマウスでは発症時期(体重のピーク時)が早く、survivalも短くなる結果でしたが、発症後の病気の進行自体は遅らせるとのことでした。ヒトSOD1蛋白質の凝集は発症時期前にはみられなかったことから、2つのmutant strainがヒトSOD1蛋白質の凝集を相乗的に促進し病気の発症などを早めていると推測されていました。

3. PETを用いたALS患者における活性化ミクログリアの観察

 ALSの剖検例の脊髄において、活性化されたミクログリアが観察されることは既に知られていますが、ボストンのMGHのZurcherらのグループはそれを[11C]-PBR28 PETを用いてALS患者で評価することに成功しました。大脳皮質や錐体路での[11C]-PBR28 PET bindingが健常コントロールに比べ有意に観察されたとのことで、早期診断あるいはバイオマーカーとして有用である可能性があります。発症早期での観察、臨床症状との対比、さらにはALSの亜型と言われているflail armやflail legでの観察など様々な興味がわき、今後の研究に注目したいと思いました。

 毎年12月という学会の閑散期に大都市の人里離れた会場で行われることが多かったのですが、今年は“Ice Bucket Challenge”の影響?か会場も広くまた、街の中心地で行われました。ほとんどの観光名所も徒歩圏内で学会参加と両立することができました。一方ブリュッセル市内で交通機関、さらにルフトハンザやフィンランド航空の国内線までもがストライキを起こし、予定を変更して帰国せざるを得ない状況になりました。私も予定より1日早く切り上げ、ストライキ前に経由地ヘルシンキに移動しました。
 また今回Norris賞を受賞されたシドニー大学のMatthew Kiernan教授らから、Pan Asian Committee for Treatment and Research in Amyotrophic Lateral Sclerosis (PACTALS)の設立が呼びかけられました。北米やヨーロッパ同様、最も人口の多いこの地域での共同研究を活発にしようとのことで、微力ながら貢献できればと感じました。
 2015年は12月11-13日までアメリカのオーランドでの開催予定です。温暖な気候でさらにディズニーリゾートがある都市ですので、子供を連れて行くと最高に喜ばれそうです。

写真:
 (上)夜にライトアップされたユネスコ世界遺産にも登録されているグランプラスの市庁舎。
 (下)世界三大がっかり像の一つと言われている小便小僧ですが、クリスマスバージョンで観光客を喜ばせていました。

(臨床分野 -clinical sessions- 報告)

 2014年12月5日から3日間にわたり,25th International Symposium on ALS/MNDがベルギーのブリュッセルで開催されました.ALS/MNDに特化した学会としては世界最大規模とされ,世界中から約1,000名のALS関係者が集結しました.本学会は患者会が主催し,医療関係者と共同して計画・運営している大変ユニークな学会です.発表は医師のみでなく多職種が参加して行われ,主としてscientific sessions, clinical sessionsの2会場で発表・議論が展開されました.

 Clinical sessionsでは患者ケア,疫学,臨床神経生理,画像診断,呼吸・栄養管理などのテーマについて活発な討議が繰り広げられていました.さらに今回は,早期の治療介入を行うための,早期診断および発症前診断についてセッションが設けられたばかりでなく,患者さんの意思決定,特に人工呼吸器の装着のみならず,その取り外しや治療の打ち切り,さらには安楽死についても大きなボリュームが割かれていたのが印象的でした.以下,私が注目した発表をいくつかご紹介したいと思います.


1. 診断/予後

 発症から診断に要する時間,これをいかに短縮するかが早期治療について重要でありますが,現状では発症から診断までの時間,診断の遅れは依然として10ヶ月前後存在しているとの報告.早期診断のために,画像診断,大脳皮質興奮性,血清マーカーなどの観点から報告がありました.

2. 呼吸管理,decision making, Euthanasia, Assisted dying/ physician-assisted suicide

@呼吸管理,特に非侵襲的人工呼吸(non-invasive ventilation; NIV),気管切開,気管切開下陽圧人工呼吸 (tracheostomy positive pressure ventilation)などの選択についての意思決定
A人工呼吸器装着後の治療の打ち切り
B安楽死 (euthanasia),自殺援助(assisted dying/physician-assisted suicide; 致死量の薬剤を医師が処方し,患者自身が自殺を図るために薬剤を内服する)
上記@からBのそれぞれについてセッションが設けられ,発表・討議が繰り広げられました.@については,ALS/MND患者さんの中で一定の割合で存在する認知症により意思決定が困難なケースも少なくないことも挙げられているなど,現場の実情をふまえた内容もみられました.A,Bについては,日本では日常経験しない事柄についての内容であり,倫理的にもかなり難しい問題でした.特にBについては,開催国の一部の地域と,隣国のオランダで認められている安楽死,そして自殺援助(assisted dying/physician-assisted suicide; 致死量の薬剤を医師が処方し,患者自身が自殺を図るために薬剤を内服する)などかなりショッキングな内容でありました.自殺援助については,薬剤処方数に比して,実際に自殺を図った患者さんは少数であり,選択肢を持っていても実際に行使をはかる訳ではないと述べられていました.
 今回,私は昨年に引き続き本学会へは二度目の参加でした.朝から,ランチを挟み夕方まで飽くことなく刺激的な演題を聞くことができ,とても実りの多い3日間でした.
 クリニカルセッションでは患者ケア,QOL,呼吸・栄養管理などについて多くの話題が取り上げられており,特に医師以外の多職種の発表も多かったことに感銘を受けました.患者さんも多く参加され,発表の内容は患者さんにとっては辛い内容も少なくない中,積極的に質問や,“ALS/MNDと生きている”実体験に基づいた意見を投げかけておられたのが印象的でした.

写真 :
coffee breakの様子です.患者さん達も積極的に参加しておられました.

このページのTOPへ