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24th International Symposium on ALS/MND 2013

24th International Symposium on ALS/MND

第24回ALS/MND国際シンポジウム
研究分野:狩野 修 東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野
臨床分野:木田 耕太 東京都立神経病院 脳神経内科

24th International Symposium on ALS/MND
Milan / Italy
2013年12月6日〜8日

研究分野報告

 2013年12月6日から3日間にわたり、第24回ALS/MND国際シンポジウムがイタリアのミラノで開催されました。ALS/MNDに特化した学会としては世界最大規模とされ、口演100演題、ポスター300演題に950名のALS関係者が集結し、活発な討論が繰り広げられていました。
 さてscientific sessionの方ですが、昨年同様C9orf72、TDP-43などのALS関連遺伝子に関する報告、さらには近年注目されているオリゴデンドロサイトに関する研究、antisense oligonucleotidesを用いた治療法の発表が多く見受けられました。私が注目した演題をいくつかご紹介します。


1. ALSの多様な臨床表現型

 Opening sessionとして私の留学中のボスでもありますStanley Appelの口演で幕を開けました。現在まで発見されたALSの遺伝子変異は約30にも達しています。ただ家族性ALSに目を向けてみても、異なる遺伝子変異から類似した臨床表現型がみられる、逆に同一の遺伝子変異から異なる臨床表現型がみられるといった現象がみられています。これらのことからALSの進行・臨床表現を規定する環境的な要素の重要性が示唆され、グリア細胞やT細胞の関与もその一つと考えられています。ALSのモデルマウスの研究でも、進行が緩徐になる時期にはグリア細胞やT細胞から神経保護的なサイトカインがより多く放出されていたと報告されています。病気の進行を遅らせる手段の一つとしてこうした免疫系の調節が今後重要になってくると述べておられました。興味深い話として、ALSに多発性硬化症を合併した患者にFingolimodを投与したところALSの進行が非常に緩やかになったと紹介がありました。細かい機序はまだまだ不明ですが今後のALS治療のヒントになるのではと考えられました。

2. ALSにおけるオリゴデンドロサイト

 ALS患者やモデルマウスでは、オリゴデンドロサイトに形態学的な変化・死滅がみられ、またオリゴデンドロサイト前駆細胞も十分に成熟できていません。結果として軸索のミエリンが形成されず、運動ニューロンへの栄養サポートが不足すると考えられています。Ohio大学のKasperらのグループでは、ALS患者の皮膚とSOD1マウスの大脳皮質からオリゴデンドロサイトの前駆細胞を抽出し、ALSでは、オリゴデンドロサイトの機能低下に加え運動ニューロン毒性を有することを初めてin vitroで証明しました。

3. antisense oligonucleotidesを用いたALS治療の未来

 Washington大学のTimothy Millerは、SOD1遺伝子変異を伴ったALS患者に対するantisense oligonucleotides(ASO)の報告を行いました。ASOでの治療法とは、mRNAからの翻訳を阻害し蛋白産生減少を目的としています。今回MillerらはSOD1 mRNAに対してデザインされたASO(ISIS 333611)を初めてALS患者に対して試み、重篤な有害事象がみられなかったと述べていました。ASOはSOD1のみならず、C9orf72に対する治療法としても期待されます。

 この学会の魅力の一つにコンパクトな運営が挙げられると思います。口演会場はscientificとclinical sessionの2会場のみで、ALSの最先端の知識を効率よく吸収することができます。また夕方までには終了するため、観光や他の研究者との情報交換の時間も十分にとれるのがこの学会のもう一つの魅力です。私自身今回で4回目の参加でしたが、openingからclosing sessionまですべて参加し、非常に有意義な時間を送ることができました。

 一方、例年口演100演題のうち、1割程度は日本からの演題でしたが、今回はほとんど選ばれず少し寂しい学会でした。日本の先生方と話す度に危機感を共有し、一層の努力をしなければならないと強く感じました。そんな中、最終日に北里大学の荻野美恵子先生が最優秀ポスター賞を受賞され、日本のALS研究の存在感を示していただき、感激しました。 ALSには有効な治療法が少なく、スポンサーの支援も十分とは言えません。そのせいか毎年寒い12月という学会の閑散期に開催されています。今回のミラノも寒かったですが、次回2014年はさらに寒いベルギー(ブリュッセル)での開催です。Closing sessionで“来年はニット帽と手袋も忘れずに”とのアナウンスがありましたが、寒さに負けずに是非次回も参加しようと思いました。

写真 :
前列左からインスブルックにご留学中の田代淳先生、鳥取大学の渡辺保裕先生、北里大学の荻野美恵子先生、後列左からマサチューセッツ総合病院にご留学中の坂野晴彦先生、筆者、そしてKent Univ.のDavid Oliver教授

臨床分野報告

 本学会は患者会が主催し、医療関係者と共同して計画・運営している大変ユニークな学会です。発表は医師のみでなく多職種が参加して行われ、clinical sessionsでは患者ケア、疫学、臨床神経生理、画像診断、呼吸・栄養管理などのテーマについて活発な討議が繰り広げられていました。以下、私が注目した発表をいくつかご紹介したいと思います。


1. 患者ケア,QOL

 イタリアの心理学を専門とするグループから、催眠を基礎とした心理療法によるALS患者、介護者のQOL改善効果についての研究報告がありました。ALS患者、主たる介護者への催眠療法、自己催眠により有意に介護者の不安・抑うつが軽減し、また患者においては睡眠障害やcramp,fasciculationまで軽減するという内容でした。その他にも、QOLの改善への試みについてのテーマは多く、患者会が主催し、多職種が参加する本学会の特徴をよく反映していました。

2. 神経生理

 Awaji criteriaの著者の一人であるポルトガルのCarvalhoらは、fasciculation potentials(FPs)はALSにおいて最も早期に出現するneurogenic changeである可能性が高い。また、引き続いて、unstable MUPを生じる経過からは、神経筋接合部近傍のdistal axonal dysfunctionが示唆される。と述べ、ALS診断、とくにweaknessがごく軽微あるいは下位運動ニューロン徴候が現れる前の早期診断におけるFPsの重要性を改めて強調していました。

3. 栄養・呼吸管理

 最適な栄養管理、特に必要摂取カロリーや胃ろう造設の時期についてはかねてより多くの議論があり、口演、ポスターともに多くの演題がありました。ALS患者において①人工呼吸管理前はhypermetabolismの傾向があること、②早期の胃ろう造設が推奨される。と言う点はこれまで論じられていた通り揺るぎなさそうです。胃ろう造設については、本邦では専らPEG(percutaneous endoscopic gastrostomy)であるのに対し、欧米ではRIG(radiologically inserted gastrostomy:透視下で経皮的に胃を穿刺し、チューブを押し込む方法:内視鏡を用いないため誤嚥のリスクが小さいがサイズが小さいため抜けやすい)やPIG (per-oral image-guided gastrostomy :口からガイドワイヤーを用いてチューブを挿入し、透視下で経皮的に胃を穿刺してチューブを引き抜く、PEGとRIGを組み合わせた方法) なども多く実施されている点が印象的でした。


 今回、私は初めて本学会に参加致しました。まだまだ駆け出しの身にとって、普段は、論文の著者としてお名前を拝見するばかりの海外のトップランナーや、日本から参加されている錚々たる先生方のすぐそばで過ごす事ができ、とても実りの多い3日間でした。
 クリニカルセッションでは患者ケア、QOL、呼吸・栄養管理などについて多くの取り上げられており、特に医師以外の多職種の発表も多かったことに感銘を受けました。
 最後に、北里大学の荻野美恵子先生が緩和ケアへの取り組みについてのご発表で、最優秀ポスター賞を受賞されたのはとても嬉しいニュースでした。

写真 :
学会の看板パネルと、会場前に駐車されていたイタリアALS協会のクルマです。
イタリアでは、ALSではなく、SLA(sclerosis laterale amiotrofica)と書くようです。

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