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15th ASENT 2013

15th American Society for Experimental Neuro Therapeutics (ASENT) 報告

新薬開発,治験推進を目的とする医師,規制当局,製薬会社,患者団体(支援団体)などによる総合的なフォーラム

東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野(大橋) 藤岡俊樹
東北大学大学院医学系研究科多発性硬化症治療学寄附講座 藤原一男

15th American Society for Experimental Neuro Therapeutics (ASENT)
Hyatt Regency Bethesda /USA
2013年2月28日〜3月2日

はじめに

本年2月28日から3月2日まで米国Washington DC近郊Maryland州のBethesdaにあるHyatt Regency Bethesdaで開催された第15回年次総会に参加した。JSNTが参加するようになってから4年目でありそのうちの3回は同じ会場であるので我々にとっても馴染み深い場所である(写真1)。

写真1 :Hyatt Regency Bethesda

学会概要

昨年までの本稿で何回も触れられているようにこの学会では具体的な疾患の治療法がメインテーマになることはほとんどない。今年の総会では、神経刺激、患者による治療選択の要因、神経治療におけるソシアルメディアの役割、神経変性疾患のtranslational researchにおける問題点、患者主導の神経治療法開発の新たなモデルがテーマに取り上げられた。この他に本学会年次総会の名物的存在であるパイプラインセッションでは、最新治験の経過報告や治験促進のためのツールの紹介、革新的な遺伝子治療や化合物の紹介などがなされた。このパイプラインセッションの出席率が最も高かったように思われ注目度の高さをうかがわせた。

他にも特定のテーマを取り上げて少人数でディスカッションするspecial interest topics tables and luncheonが行われた。テーマの一覧を下記に示す。

1.  有効性比較研究を可能にするツールとしてのHealth Information Technology (HIT)
2.  Phase 1試験でどのようにして有効性を伝えるか
3.  動物実験に対する適切な期待とはなにか
4.  最適な薬物用量を見つけるにはどうすればよいか
5.  臨床研究において患者の参加を得るためにSocial mediaを使いこなす方法について
6.  患者データの収集法の改良:スマートフォンやその他の遠隔モニターシステムの活用
7.  若い研究者を神経治療の領域に引き込むにはどうするか
8.  第3相試験を行うにあたり市販承認を支援するのに必要な安全性
9.  国際的薬物開発への挑戦
10. 起業した直後のベンチャー企業が新薬の開発を承認してもらうための方策

これらは今回の総会のなかでも何回も議論されているテーマであった。

【国際ワーキンググループ】

米国からはFDA、NIH、薬業界の担当者、大学の神経内科医など、欧州からは製薬会社所属の神経内科医、日本からは我々の合計10人ほどが集まり昼食をとりながら2時間程度語り合った。各地域に特有の文化的特色がありそれを尊重しながら問題点をお互い認識し、次にはそれぞれの地域でどのように解決して行くかを学問的に検討して行くことになった。まず、第一段階として国内の規制当局や製薬会社に簡単な質問紙を送り回答を集約することが決まった。しかし例年参加していたドイツの実験的神経治療学会の参加は無く前回と比べるとこぢんまりとした印象だった。

【中枢神経疾患に対する臨床的神経刺激療法】

紀元70年頃のローマ帝国の記録に、シビレエイをもちいて疼痛を除く治療が記載されており歴史のある治療法である。電気刺激のほかにもいろいろな疾患に対する磁気刺激の可能性が紹介された。Parkinson’s disease foundationのメンバーからはDeep Brain Stimulationと内服薬の組み合わせ方に対する治験の必要性や、Drug Delivery Systemとしての埋め込みツールの重要性が指摘されていた。

さらにALSや橋梗塞によるlocked-in 症候群の患者など大脳半球の機能が保たれた四肢麻痺患者に対してneural interfaceを用いて、大脳半球の運動皮質の細胞活動を、微小電極を脳表面に植え込んで感知し、信号を変換して人工的効果機に伝達し失われた運動機能の代わりにするものである。ロボットアームにつなげて自分の力で水筒から飲水する場面が動画で紹介されていた。

これらのdeviceの認可はbenefitとriskのバランスで決定されている。体内に長期間埋め込まれるものや、心臓ペースメーカーのように心臓を持続的に刺激することはリスクが高いと見なされ認可が必要である。Deviceは比較的小さな企業が開発に当たることが多い。また盲検を行うことが難しくsham operationのような手法が必要となる。そのため、通常の薬剤の治験とは様相が異なることが紹介された。

【神経治療におけるソシアルメディアの役割】

希少疾患が多い神経疾患では、治験を組むときに有効な数の患者を集めることが一番問題となる。米国でも、治験の1/3は患者を充分に集められず、20%は治験期間内に終了せずに失敗しているとのことである。患者を募集するためのツールとして、twitter, face book, YouTubeのようなソシアルメディアの有効性、更に積極的にこれらのソシアルメディアを用いて治験の効果を報告してもらう試みが紹介された。こういった方法はたとえ便利でも、得られるデータの信憑性が低く、個人情報が流出する可能性が高いといった危険性を孕んでいる一方で時間、費用、患者数の確保といった面では利点もあるので、リスクを軽減して行く努力が必要である。セッションではこの方法の利点に力点をおいて議論されていた。

患者は、疾病の症状に関する情報以外に、経済的な情報や保険に関する情報を集約している。つまり、疾患の臨床の理想的な情報源と言い換えることが出来る。個人情報流出をコントロールしつつネットを使って情報収集が出来れば、コスト・ベネフィット比は良好なものになるであろう。このような考え方は我が国ではなかなか出てこないものであるがまじめに議論されたことも我々にとっては驚きであった。

【神経変性疾患の動物モデル】

Phase I, II studyの重要性が強調されていた。アルツハイマー病のワクチン療法開発を例にとって数人の発表者がそれぞれの段階から講演しパネルディスカッションが行われた。結論の要旨は以下の通りである。

1)動物実験でのアイディアから実際に使用できる薬剤の開発につなげるためには、まずじっくり時間をかけてPhase I, IIを行い、それからPhase IIIへジャンプするのがよい。

2)「臨床治験をとりあえずやってみよう」という考えは間違いである。また、臨床治験で生じた問題点は必ず動物に戻って再検討するべきである。

【ポスターセッション】

今年は総計18のポスター発表があった。毎回、ポスターセッションはこぢんまりとしているが発表内容は濃密である(写真2)。日本からは大阪大学神経内科望月教授のグループが遺伝子治療などに関する発表を2題されていた。まさにASENTの設立当初からの実験的神経治療というモットーに合致した発表であった様に思う。ポスターセッションの採択基準は決して容易ではないが疾患特異的な治療に関する発表も多いので、今後わが国からの発表が増えることを期待している。

この中でPhase 2治験の質、価値、速さそして有効性を増すためにNINDSのサポートで2011年に創設されたNeuroNEXT networkが成果を発表していた。これはacademia、個人的財団、企業の協力体制を樹立することを第一目標としている。Clinical coordinating center (CCC)をMassachusetts General Hospital に、Data Coordinating Center (DCC)をIowa大学に置きその他25のClinical Study Site (CSS)を定め、このネットワークが専門的な視点から、方法論的に組織化された治験に対する後方支援ができるよう、また小児から成人までの神経疾患の治験のすべての段階のスムーズな遂行を可能にするよう適切な助言ができるように人的資源を配置している。中心となるIRB (CIRB) もネットワークの中に作られていて一括審査している。2011年9月以来、82のproposalが提出され27 のプロトコール委員会が作られ9 grantsが申請され1 grantは再申請中で4 grants は2013年3月中に申請が終わる予定となっている。そして、CIRBでの承認までの平均55日で承認されている。この間、申請書は何回か書き直されているのだが最終的なヴァージョン提出から承認までは平均わずか9日である。このスピード感はわが国ではあまりみることが無いのではないだろうか。当然新薬開発のテンポは速くなるであろうし、こうした支援機構に米国政府が大きく関与している点は、新薬開発を国策と位置づけているかのように思える。立ち後れないようにわが国も何らかの企画を立ち上げる必要があろう。

写真2 :ポスターセッション

【視察を終えて】

ASENT総会に始めて出席した4年前と同様に、今回も米国の大きな動きに圧倒される思いであった。新規治療法開発に関する講義は医学部では残念ながらあまり盛んには行われていないし、行われている数少ない先覚的な大学でもあまり系統的ではないのが実情であろう。早急に医学教育のあり方を考え直す必要があるのではないだろうか。このようなことを帰国途中の機内でうつらうつらしながら考えつつ帰国した。

 

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