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23rd International Symposium on ALS/MND 2012

23rd International Symposium on ALS/MND

第23回ALS/MND国際シンポジウム

研究分野:井口洋平, 勝野雅央 名古屋大学大学院医学系研究科神経内科
臨床分野:狩野 修 東邦大学医療センター大森病院神経内科

23rd International Symposium on ALS/MND
Chicago / USA
2012年12月5日〜7日

(研究分野報告)

私達は12月5日から7日まで開催された第23回ALS/MND国際シンポジウムに参加して参りました。この学会はALS/運動ニューロン疾患のみを対象にした学会としては世界最大の学会であり、講演96演題、ポスター308演題、900名を超えるALS研究者が参加し、今年は米国シカゴを会場として、例年にも増して非常に活気に満ちた雰囲気のもとで開催されました。

ALSの研究は遺伝子解析技術の進歩によりTDP-43, FUS, Optineurin, Ubiquilin2やC9orf72などが家族性ALSの原因遺伝子として次々と同定され、病気のメカニズムが解明されてきています。今回のシンポジウムでも、これらの新規ALS関連遺伝子に関する発表が多くみられました。以下、私達が注目した発表をピックアップして紹介したいと思います。

1.FUSとTDP-43のRNA制御における機能的相同性

家族性ALSであるALS6とALS10の原因遺伝子であるFUSとTDP-43はともにDNA/RNA結合蛋白質であり構造的に共通性をもち、RNAのスプライシングや遺伝子発現を調節していることは報告されていましたが、それぞれが標的とするRNAは異なるのではないかと考えられていました。Don Clevelandらのグループはマウスの脳とヒトの幹細胞から誘導した神経細胞を用いた解析から、FUSとTDP-43がともに長いイントロン(非翻訳領域)を持つ遺伝子群の発現を制御することを見出しました。それらの中にはKCNIP4やParkinといった神経細胞の機能維持に必要な遺伝子も含まれていました。もっとも、FUSとTDP-43が調節する遺伝子はそれぞれ異なったものの方が多く、それぞれ別の病態も想定されるわけですが、このようなALS関連分子が神経細胞において共通して有する機能を解析することは病因の解明や治療方開発にとって非常に重要だと考えられます。

2.TDP-43, FUS変異はともに小胞体ストレスを惹起する

膜蛋白質や分泌型のタンパク質は、細胞内で合成された後、小胞体に入り、ゴルジ体を経由して細胞外に分泌されたり特定の部位に運ばれたりしています。小胞体ストレスとは、変性タンパク質が小胞体に蓄積することで生じ、許容限度を超えると細胞死(アポトーシス)が誘導されます。ALSの運動ニューロンにも小胞体ストレスが加わっていると考えられていて、病態への関わりが注目されています。Atkinらのグループは、変異を持ったTDP-43とFUSがともにタンパク質の小胞体からゴルジ体への輸送を抑制することによって小胞体ストレスを惹起していることを報告しました。さらに、変異TDP-43とFUSがともにER‐ゴルジ体輸送に重要なRab1に結合することも示し、変異蛋白の蓄積によってRab1が機能できなくなることがこの病態のメカニズムではないかと考察していました。彼らは既にこの現象が変異SOD1によっても生じることを示しており、小胞体からゴルジ体への輸送障害がALSに普遍的に存在するメカニズムである可能性が提唱されました。

3.動物モデル

UBQLN2の遺伝子変異(P497H)を導入したマウスモデルの報告がSiddiqueらのグループから報告されました。UBQLN2変異マウスは運動機能障害を呈さないものの進行性の行動異常を生じ、病理学的には海馬を含めた大脳皮質ニューロンにubiquilin2陽性封入体を認めています。この封入体はOPTN陽性ですがTDP-43やFUSは陰性であり、また脊髄運動ニューロンには封入体を認めないなど、やや家族性ALS患者とは異なった病理像を呈していました。また、大脳皮質ニューロンにおけるUBQLN2変異導入はシナプスの伝達長期増強(long-term potentiation)を障害させることも示され、生体内におけるUBQLN2変異が直接的に神経変性を来すことが動物モデルによって実証されました。

今年のシンポジウムでは、欧米の家族性ALSの原因の約4割を占めると言われているC9orf72変異に関する発表がポスター発表を含め多くありました。複数のC9orf72変異を有するALS患者さんのGGGGCCの異常伸張RNAそのものよる毒性と、タンパク質の機能が低下することによるloss of functionの両者について研究が進められています。今後動物モデルの開発や病態解析などを経て、新規の治療法が見出されてくることが期待されます。新たな原因遺伝子の発見を機にALS研究が急速な進歩を遂げていることを目の当たりにし、我々も運動ニューロン疾患の治療法開発に向け一層努力をしていきたいと思います。


写真1)研究分野の会場風景

(臨床分野報告)

クリニカルセッションでは患者ケア,疫学,クリニカルトライアルなどにわかれ,活発な討議が繰り広げられていました.

1.クリニカルトライアル

ISIS 333611,神経前駆細胞の脊髄への移植,CK-2017357,olesoxime,NP001などの臨床試験の途中経過が報告されました.これらの中ではNorris MDA/ALS Research CenterのMillerらが中心となって行われているNP001が最も注目されていました.ALSの進行にはNeuroinflammationが強く関与していると考えられており,NP001はその中心的役割を果たしている活性化マクロファージの働きを抑制する免疫調節因子です.今回はphase Uの報告でしたが,今後の経過に注目していきたいです.

その他,我々の臨床で広く用いられているALSFRS-Rに関して,12の調査項目から6項目に減らしたALSFRS-6(Speech, Handwriting, Dressing and Hygiene, Turning in bed, Walking, Dyspnea)の有用性に関しての報告がありました.6項目のみでも,従来のALSFRS-Rの変化率などと相関しているそうです.NorrisやAppelスコアの時代に比べてALS患者の機能評価がどんどん簡素化されていく印象を持ちました.

2.疫学研究

米国のALS患者(あるいは介護者)が登録するNational ALS Registryが紹介されました.登録に要する時間は5分程度で,将来のALSの原因究明,治療法などに寄与することを目的としています(http://wwwn.cdc.gov/als/). 診断基準などの諸問題もありますが,この患者登録システムを欧州も含めて行うかあるいは世界中で行うか,今後の検討課題であると提言されました.

また別の角度として,米国のメディケア(高齢者あるいは障害者向けの公的医療保険制度)からの研究も紹介されました.これまでの論文報告でも散見されていましたが,高血圧や糖尿病,高コレステロール血症を合併しているALS患者の生存期間が延長していると述べられていました.高BMI指数が生存期間の延長をもたらしているのではと推測していました.

その他,静脈血栓塞栓イベント(深部静脈血栓症や肺梗塞も含めた)がALS患者において一般有病率と比べ高いことも指摘され,臨床医は注意が必要であると報告されました.

3.食事・栄養

オランダのグループからFood Frequency Questionnaireを元にした調査が行われ,高脂肪食がALSのリスクを高め,逆に食物繊維やビタミンCなどの摂取がリスクを下げると発表されました.またビタミンD不足がALSの進行を加速させることも示唆され,今後の臨床現場で役に立てられのではと感じました.

来年のALS/MND国際シンポジウムはミラノでの開催です。この学会の特徴として医師、研究者のみならず医療関係者や患者も自由に参加できるというのが一つの特徴です.介護者とともに参加されている患者もいて、車椅子に乗った患者が発表者に質問することもしばしばみられるオープンな学会です.ALSという難病に苦しむ患者のためにも1日でも早くいい結果を報告したいと強く感じた学会でした.


写真2)シカゴ郊外にある軍事博物館で岩崎泰雄教授(右)と.酷寒な上に展示が屋外であるのには正直参りました.

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