- HOME
- > 神経治療最前線 海外学会参加報告
- > 14th ASENT 2012
神経治療最前線 海外学会参加報告
14th ASENT 2012
14th American Society for Experimental Neuro Therapeutics (ASENT) 報告
新薬の開発、治験推進を目的とする医師、規制当局、製薬会社、患者支援団体の総合的なフォーラム
東北大学大学院医学系研究科多発性硬化症治療学寄附講座 藤原一男
北里大学医学部神経内科学 荻野美恵子
14th American Society for Experimental Neuro Therapeutics (ASENT)
Washington DC/USA
2012年6月17日〜21日
1) ASENT視察の概要
2012年2月22日(木)から25日(土)に米国ワシントンDCのThe Ritz-Carltonホテルで開催された第14回米国実験的神経治療学会(American Society for Experimental Neurotherapeutics, ASENT、http://asent.org/)に日本神経治療学会国際化ワーキンググループ(代表祖父江元理事 名古屋大学神経内科)メンバーとして参加した。2010年(藤岡、織茂)2011年(藤岡、藤原)にひきつづき3回目の交流および視察となり、また米国、英国、EUと日本を中心にしたinternational meetingにも参加した。
2) ASENTの活動の特徴
昨年の報告にもあるように、ASENTは日本神経治療学会(以下JSNT)と異なり、その主な目的は新薬の開発(drug development)と治験の推進であり、医師は多くが治験および新薬開発に関与する大学医学部所属または企業所属の参加者が多く、臨床医は少ない。特徴的なのは、アカデミアのみならず審査や研究助成を行うNIHやFDAなどの政府関連機関の担当者、製薬会社(新興の小中規模の会社が多い)の研究者、また種々の疾患の患者支援団体が一堂に会し議論する学会である点である。日本の神経内科領域ではこのような学会は存在しないが、ASENTメンバーによると、米国やEUでも夫々のステークホルダー(stakeholder)が一堂に会して公平・対等の立場で共通の目的である「よりよい治療のために」議論できる場はめずらしいとのことで、だからこそ、政府関連機関も貴重な情報収集・発信の場として参加できるということであった。
今回のASENTはISCTM(the International Society for CNS Clinical Trials and Methodology http://isctm.org/)8th Annual Scientific Meeting(2月21日〜23日)との合同開催であった。(ISCTMもアカデミア(1/3)と企業(2/3)が参加する新薬開発に関する方法論などを議論する学会であるが、ASENTとの相違点については確認できていない。)そのため、2月22日夕方のポスターセッションおよび23日午前中はjoint session(Challenges and Opportunities in Pediatric Drug and Device Development for Neuro-Psychiatric Diseases: A Cross-Disciplinary Symposium)であり、通常のASENTよりも参加者も多く、200名以上であったと思われる。joint sesisonでは大学、製薬会社の研究者と政府関連機関の職員などから発表があった。特筆すべきは今回当WGからのもご依頼申し上げ、日本の政府関連機関としてPMDAから宇山佳明先生からもご発表いただいた点である。その後のプログラムはASENTのみで行われ、参加者も100名程度で主にアカデミアからの発表が多かった。
ASENTの主な収入源は企業からの寄付および機関誌によるもののようで、プログラムにも寄附の金額と企業名が掲示され、最高額の$100,000から最少額の$1,000〜$2,499まで計22社が寄附をしていた。
3) プログラムと主な発表内容
第1日のセッションは、ISCTMとのJoint Information Exchange and Poster Presentation Reception であり、ワインや軽食が提供されながら、発表者と自由に討論するというものであった。内容は多岐にわたっていたが、ISCTMとの合同開催であったためか、精神科領域(統合失調症やうつ病)のものが多かった。
第2日目の午前中は前述の通り、joint session(Challenges and Opportunities in Pediatric Drug and Device Development for Neuro-Psychiatric Diseases: A Cross-Disciplinary Symposium)であり、CNSの発達についてのアカデミアからの発表ののち、米国FDA,日本PMDA,EU EMAから特に小児についての見解が発表された。
午後はBreak-out Sessionとして、選択したtopicsにわかれて105分間議論し、その成果を発表するというもので、Topic 1: Specific Challenges, PK/PD,Potential for Longer Term Effects、Topic 2: Animal Models for Diseases, Drugs &Devices、Topic 3: Pediatric Outcomes and Scales、Topic 4: IRB and Ethicsが取り上げられていた。
Dinner Sessionは医療経済についての発表で、Pennsylvania大学Wharton校のJ.Sanford Schwartz教授からJokeをふんだんにちりばめた、しかし内容は深刻な医療経済の話題(米国の医療費の状況や成果の得にくいCNS領域から企業も手を引き始めている現状)および、英国NICEの代表であるSir Michael Rawlins教授から手厳しいコストと新薬への評価(これ以上新薬はいらないのではないかとも言及)について発表があり、その後のディスカッションも大いに盛り上がった。
第3日は、Brain Image に関するもので、脳機能画像やMRIなどについて、統合失調症、MS,PD、ADについて発表があった。
昼は8つのトピックスに分かれてLuncheon がもたれたが、その間我々はinternational meetingに出席した。
午後は開発段階にある種々の新薬の候補を発表者が10分で次々に紹介するパイプラインセッションが約4時間にわたって行われた。
最終日の午前中は新薬開発に関するシンポジウムで、基礎研究者からの開発に関する発表や、アカデミアと企業が如何に協力して新薬を開発するかについての取り組みについての発表があった。アカデミアの研究のシーズを早い段階で、企業に斡旋し、興味のある企業が新薬として開発できるかどうかに資金提供も含め関与し、成就した際には治験まで持っていく取り組みがJohns Hopkins大Barbara Slusher博士から紹介され、話題を呼んでいた。
また、それに関与して、若い研究者に新薬開発や治験についての基礎知識をつける教育プログラムの開発に対してNIHが増額のファンドを計画し、ASENT主体のプログラムが採択され、開催していく予定であることが紹介された。
4) International meeting について
3日目のLuncheon時に行われたが、米国、ドイツ、イギリスと日本の代表(20名弱)によりワーキンググループで神経治療について国際的にどのように協力できるかについて話し合われた。日本からはPMDAより宇山先生、ファイザーより藤本陽子先生にも参加いただき、宇山先生、藤本先生に発言を求められ、日本の規制当局としてもこのような会議の場で他国の状況を把握し、PMDAについても理解を求めたいと思っていることが報告された。今回は国際学会組織作成の話はなく、当面情報交換しましょうという内容にとどまった。会議の大半は国際化というよりも、新薬開発全般に関する議論でしめられ、国際的になにをすべきかについては今後メールで連絡を取り合うということになった。
また、翌日の終了後にもHamill理事長とASENT創設者のTom Chaseさんと会食し、今後の協同体制につき意見交換をした。我々からは、JSNTの現在の学会としてのミッションや活動内容について説明し、ASENTとはかなり性格の異なった学会であることについて理解いただいた。会員数、総会参加数が多い理由について理解できたようで、ASENTも臨床的話題をもう少し取り込んで、参加者を増やすことも考えていくべきかもしれないとの感想をいただいた。日本側は新薬開発について、学会のできることもあるのではないかという視点で、ヒントと刺激をいただいた。
また、どのように今後協力しあえるかについては、今回の学会の様子をビデオ撮影しており、それをJSNTでも見られるようにしたらどうか、日本の総会でも国際的なテーマをとりあげたセッションを持って、各国からの発表者による議論をしたらどうか、などの提案があげられた。
5) ASENT視察を終えて
前回同様、日本の神経治療薬の治験を推進するために適正な評価の方法や問題点を医師以外の関係者(PMDA、製薬会社の新薬開発担当者など、また適宜患者支援団体)も含めて皆で議論し、さらに開発中の新薬の紹介とその開発をサポートする場を提供(総会におけるシンポジウム、あるいは総会以外の時期のワークショップ開催など、)は、治療に特化したJSNTとしてふさわしい活動になると再認識した。それにより新しい神経治療の選択肢をより早く患者さんに届け、academia, government, pharma, advocacyの相互の関係も円滑になり活性化されることが期待される。
欧米では経済効率の観点からCNSへの企業の関与が減少していることに対する危機感があり、如何に効率的にCNS領域の新薬開発を進めるかについて、国もアカデミアも奮闘しているという状況と受け取れた。具体的に、企業が取り上げやすいシステムを構築、新薬開発に興味をもつ次世代の育成プログラムを実行するようにすすめておられ、日本の医療界のこの分野での立ち遅れを感じた。
一方で、ASENTの学会としての立ち位置や困難さも垣間見ることができ、JSNTの会員が臨床医が中心という意味では新薬開発や治験のみがミッションとはならないであろうということも示唆された。これまで通りの臨床治療レベルの向上も継続しつつ、新薬開発にむけて関係各所との連携強化に如何にアカデミアや学会が関与していくかを模索し、国際的な歩調にも遅れることのないように、今後も継続的に情報交換していく必要があるとの印象をもった。
(文責 荻野)