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MDS 16th International congress

16th International Congress of Parkinson’s Disease and Movement Disorders 学会報告

Parkinson病とその関連疾患の最新情報

武田 篤 東北大学大学院医学系研究科 神経・感覚器病態学講座 神経内科学分野

16th International Congress of Parkinson’s Disease and Movement Disorders Dublin/Ireland
2012年6月17日〜21日

6月17日から21日まで16th International Congress of Parkinson’s Disease and Movement Disordersがアイルランドの首都ダブリンで開催された。一般演題が1600余り、参加者は主催側発表で5000名以上とMDS (Movement Disorder Society) の学術集会としてこれまでで最大規模となった。

会場となったThe Convention Centre Dublin(http://www.theccd.ie/)はダブリンの中心を流れるリフィー川の河岸に2010年に建設されたばかりの最新のコンベンションセンターである。内部の設備や周囲の環境ともにとても良く整備されており、全体として非常に良い環境での学術集会であった。国を挙げてコンベンション誘致に積極的であるとのことで、初日に開かれた全員参加のウェルカムパーティでは何と現役の首相が来賓として出席し参加者に歓迎のスピーチを行った。街の中心部にも近く、学会期間中には周辺に点在するIrish BarにてGuinness Beerを楽しみながら談笑する会員が多くみられた。人口100万人以上の大都市でありながら治安も良く、陽気なアイルランド人の気質も相まってどこか田舎的な雰囲気もあるダブリンは、短期滞在の旅行者にとっても心地良く過ごし易い街であった。

学会の内容は多岐に渡りparallel sessionも多いため、すべてを把握できている訳ではないことをお断りした上で、個人的な興味も含めて、ここ数年Parkinson病(PD)治療の方向性として模索されて来た幾つかの課題について以下にまとめてみたい。

1) ドパミン刺激療法の安定化

新しい経口のレボドパ徐放錠(IPX-066)の開発が話題となっている。レボドパ内服による血中ドパ濃度の急激な変化の繰り返しが、中枢ドパミン濃度の変動を介して運動合併症を引き起こすことが分かっているが、それを防ぐためにレボドパの徐放化の試みは以前から行われていた。しかしながら立ち上がりが遅いこと、および吸収が安定しないことにより薬効が安定しないため中々普及せずに現在に至っている。IPX-066は新しいdrug delivery systemの導入により、早い立ち上がりと安定した吸収特性を実現した徐放錠であるとされる。実際、進行期に於けるオフ時間の短縮効果は確証されている。今後は早期導入による運動合併症の予防効果があるかどうかに注目される。

2) ドパミン刺激に依らない治療法の可能性

レボドパ・ドパミンアゴニストを含むドパミン刺激療法の充実とともに、PDの運動機能障害は明らかに以前より良く治療できる様になり、実際生命予後の改善もみられている。しかしながら、それとともにドパミン刺激療法に反応し難い問題症状、例えばオン時のすくみや姿勢反射障害、姿勢異常などの治療に次第に注目が集まって来た。そうしたドパミン不応性症状の治療法として期待されているのがドパミン刺激に依らない薬剤の開発である。現在のところ、中々ドパミン刺激療法に匹敵する効果が得られる薬剤は開発されていないが、そうした中で本邦から新しいアデノシンA2A受容体拮抗剤であるIstradefylline(KW6002)の臨床治験結果が報告され注目を集めた。進行期に於けるオフ時間の短縮が証明されており、今後ドパミン刺激療法の補助的な薬剤として使用されて行くものと思われる。世界に先駆けて本邦に於いて開発された薬剤であり、今後の展開が期待される。

3) 非運動症状への対処

PD認知症の第一人者であるDavid J. Burn先生がScientific committeeのChairであったこととも関連するのかもしれないが、今回は特にPDに於ける認知機能障害に関するセッションが目立った。実際ほぼ連日、何らかの関連するセッションが有ったと記憶している。ドパミン補充療法による予後の改善、および人口の高齢化を背景とする高齢発症例の増加により、PDに随伴する認知症に対する対処が以前にも増して大きな問題となっている。20年間の追跡調査ではPDの80%以上に認知症が合併すること、認知症合併後の生命予後は運動症状の発症年齢に依らず3〜4年であることが既に分かっており、今やPDの予後を最も大きく左右するのが認知機能低下の問題であると言って過言ではない。ここ1〜2年、MDSの専門委員会からParkinson disease dementia (PDD)の診断基準、およびその前段階としてのMild cognitive impairment in Parkinson disease (PD-MCI)の診断基準が提案されて来た。発症後早期から重篤なBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia (BPSD)を合併するリスクが非常に高いため、PDD発症例ではドパミン刺激療法など運動障害に対する治療法を減量または断念せざるを得なくなることが多い。このため認知機能障害の進行増悪とともに運動機能障害も“坂道を転げ落ちる様に”悪化することをしばしば経験する。早期発見・早期治療法の確立が急務であると考えられるが、そのためにはPDDの早期診断のためのバイオマーカーの開発が求められる。そうした中で米国ペンシルバニア大学のグループから、血漿中のEGF濃度がPDD移行前に優位に低値を示すことが報告された。また我々は重度嗅覚障害がPDD発症の良い指標となることを証明し報告した。こうした研究は今後のPDDに対する早期の治療介入の道を開く可能性のあるものとして注目を集めた。PDに於ける認知機能低下についてはコリンエステラーゼ阻害薬がある程度有効であることが確立しつつある。今後は、如何に早期にPDD移行例を検出し、治療介入する方法論を確立するかが重要であると思われる。

4) 神経保護療法の確立

PDの病態進行そのものを治療して行くことは究極の治療目標と言えるが、未だにそのstrategyは確立していない。今回もこれまでの幾つかの試みをreviewするセッションのみであり新しい展開は報告されなかった。そうした中で、αシヌクレインのPD病態に於ける役割を再考する幾つかのレクチャーに興味を持った。胎児由来の黒質神経細胞移植片にレビー小体の存在が報告されて以来、αシヌクレインがプリオン様(prionoid)の挙動を示す可能性について注目が集まっているが、最近その類似点と相違点が次第に整理されて来た様に思われる。今回の幾つかの報告でもαシヌクレインが細胞内オルガネラの中でどの様に代謝され、どの様に移動して行くのか?細胞間輸送のメカニズムは?等々議論されていた。こうしたαシヌクレインの輸送機構を解明して行くことが新たな治療法開発の切り口になって行く可能性がある。

5) その他のパーキンソニズムについての話題

PDに比し、多系統萎縮症(MSA)や進行性核上性麻痺(PSP)などのいわゆるatypical parkinsonismについては未だ確立された治療法がない。欧州のMSA研究のリーダーであるGregor Wenning先生からrasagilineやriluzoleなど、これまでの幾つかのクリカルトライアルの紹介がされたが、今のところまだbreak-throughはない様であり今後の進捗が待たれる。そうした中で、Mesenchymal stem-cellによる移植治療の有効性を示唆する韓国のグループからの報告については、その真偽を含めて大きな話題となっていた。本邦から北海道大学の佐々木秀直先生がMSAのセッションの演者として招待され、昨年先生のグループから報告された一卵性双生児のMSA姉妹例に関する遺伝子解析の結果について報告し注目を集めた。先生のグループが発見された遺伝子欠落部位は、孤発性MSAでも高率に欠落しているとのことで、MSAの病態基盤を解明する可能性のある成果として今後の展開が期待される。

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