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21stinternational symposium on ALS/MND

21stinternational symposium on ALS/MND報告

北里大学神経内科学 荻野美恵子
自治医科大学神経内科 森田光哉
九州大学神経内科 立石貴久

21st international symposium on ALS/MND
Orlando, USA
2010年12月11〜13日

今年もALS関連では最大のALS/MND国際シンポジウムが開催されました。大変ユニークな学会で患者会が主催し医療関係者と共同して計画され、ALSに関係することがすべて詰まっています。発表も医師のみでなく多職種が参加して行われ、主に最新の基礎研究についての発表が続くscientific sessionsとケアや実際の治療、治験成績など臨床研究を中心としたclinical sessionsが並行して進みます。これまでは最終日に各sessionのサマリーが発表され、エッセンスを把握できたのですが、全員参加のディナー共々今年は行われず残念でした。

開催に前後して様々な会議がありますがWorld Federation of Neurology Research Group on ALS/MNDではNeuroepidemiology of ALSがテーマで、日本からは梶先生が紀伊ALSを中心に口演なさいました。キューバでは発症率が少ないそうで移民の関係か?など、国によって地域によって多少発症率が異なり、どのような理由かについて議論がありました。

また、Allied Professionals' Forum(APF)では高いQOLを得るための緩和ケア、多職種連携チーム医療、呼吸器離脱についてなどの報告が相次ぎ、特に衝撃的だったのはALS患者の性についての報告でした。私たちは無意識にともすると患者さんを病人というカテゴリーに入れ込んで、そこにreal lifeがあることを忘れがちです。わかっているつもりになっていましたが、病人であると同時に人生を生きているということを大切にする医療という視点を、もう一度見直す必要があると感じました。

また、国際学会の良い点は各国の旧友と会えることです。私はコロンビア大学の神経免疫の研究室に留学しましたが、その当時の同僚がなぜかALS分野で活躍しています。他にも毎年学会で職種を問わない多数の方々とお会いでき情報交換し励ましあえると、また一年頑張ろうと思えます。昨年はAPFとclinical sessionsと2演題口演したのですが、その内容を覚えていて話しかけていただいた方もいて感激しました。限られた演題数の口演にアジアから選ばれることが極端に少ない学会ですので、来年もチャレンジしたいと思います。(荻野美恵子)

scientific sessionsに参加した印象は、近年続々と報告されているALSの原因遺伝子についての病態解析が、様々な手法を用いて、また種々の細胞、動物モデルを通じて確実に進められているというものでした。

今回の口演では、家族性ALSの原因遺伝子として同定されたTDP-43とFUS/TLSがRNA/DNA 結合蛋白であることから、特にRNA Biologyというsessionが設けられ、RNA processingの異常に着目して、その標的となる蛋白の同定や病態解析の報告がなされました。

また徳島大学の梶龍兒教授からは、家族性ALSの原因遺伝子として、日本において新規に見いだされたOPTN遺伝子異常を有する症例の臨床および病理像についての報告があり、これが最新の遺伝学的トピックスと思っていたところ、最後のclosing sessionでは急遽演題が差し替えられ、新たに同定された原因遺伝子VCPについての報告がなされました。この遺伝子の同定は、exome sequencingという手法が用いられ、全ゲノムの1%を占めるexonの塩基配列を10日ほどで、費用も$1000程度で解析するというもので、linkage解析に適さない小さな家系でも解析できることから、今後この手法を用いた遺伝子同定が益々加速されるものと思われます。

一方ALS-FTD家系で同定された遺伝子座の9pについて、この遺伝子座を追認した報告がその後もでているにも関わらず、その狭められた領域の全sequenceを行っても原因となる異常は見つかっていないとの報告がなされ、このlinkage studyに関与した一人として、この遺伝子座研究の経過を興味深く、また感慨深く拝聴したしだいであります。

本シンポジウムに参加するようになって5年めですが、ALS/MNDに特化した情報が、基礎から臨床、介護を含めて、その時々のトピックスを交えて聞くことができ、しかも各国から参加者との交流ができる貴重な機会だと思っております。 (森田光哉)

clinical sessionではオートノミー・QOL、教育、疫学、心理、ケア、呼吸器・栄養管理などのセッションに分かれていました。以下、印象に残ったトピックをまとめてみます。

介護者の方はALS患者と比較して苦悩、孤独感のスコアが有意に強く感じており、介護者は「ALS治療において忘れられた患者」とも言えるのではないか。
ALSの症例が出現してから診断に至るまでに時間がかかることが患者、家族を傷つけてしまっているという問題があるため、非専門医に対するALSに対する啓発が大切である。
コミュニケーション機器を手に入れているにも関わらず、上手く活用出来ていない。
ALS緩和ケアに関わるスタッフの燃え尽きをどのように予防していくか。
救急病院でTPPVを装着したALS患者の89%は予定外に装着している。救急病院へ入院や予定外に気管切開してしまう危険因子として、口腔内分泌過多、NIPPVを継続利用出来ないことなどが挙げられるという報告。
多職種でアプローチするmultidiciplinary clinic (MDC)に通院するALS患者は、患者はサポート体制が充実しているためADL自体は低いにも関わらず、QOLは高いということ。

これらの問題の多くはわが国が抱えているALS診療の課題と同様であり、大変参考になるものでした。MDCでの多職種アプローチは日本では大学病院レベルでも難しいものですが、多職種アプローチを確立することの意義を強く感じることが出来ました。また、救急病院でのTPPV装着の問題については日本の急性期病院においても同様のことはあるのでしょうが、なかなか報告までに至らない内容であり、大変貴重な報告でした。

また、追加講演ではdextromethorphanとquinidineの合剤であるnuedextraがALS患者の強制笑い、強制泣きなどのpseudobulbar affectに対しても安全で有効であるという報告がなされました。pseudobulbar affectは臨床の場でも我々医師を悩ませるものであり、有効であれば是非日本でも使えるようになればと感じました。

私は本学会へは横浜開催以来2回目の参加ではありますが、今後の診療への参考になるものでした。clinical sessionでは日本からの口演発表がなく、その点が少し寂しい点でした。臨床の中でのちょっとした気づきについてもきちんとデータを取り、英文で報告していくことの重要性を実感しました。こうした臨床からの報告はむしろ難しいことなのかも知れません。

来年のALS/MND国際シンポジウムはシドニーで開催です。ALSの基礎のみならず、臨床的な問題に興味がある方は是非参加して頂けたらと思います。(立石貴久)


会場ホテル上空から撮影

会場のJW Marriott Orlando hotel  ディズニーワールド、ケネディー宇宙センターまで約1時間のリゾート地で開催されました。最も会場にカン詰の私には関係ありませんでしたが・・・

会場風景

ホテル内画像

とにかく寒かったです。植栽にもカバーが掛けられていました。

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